Paul

2013年5月10日 (金)

『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第9回「バック・トゥ・ジ・エッグ」

Egg_2グレイテスト・ヒッツがポールが考えていたほど売れず、アメリカではレコード会社を移籍した。このアルバムはお金かかってますよ。ジャケットからもわかる。
メンバー2人招集して、クリス・トーマスも呼んで、ロケストラも企画した。ロケストラのギャランティも高いよ。

ヴァーナス・アンド・マースもう一度、といった感じがジャケットからも、そして内容も香りたっている。“Getting Closer”から全開だ。どの曲も、悪くない。ただ思うのは、オーヴァー・アメリカから3年、ポールの音楽は若者にとって、ぬるく、丸くなってしまった。ただそれだけのことかもしれない。

いろいろ反省して、節制もして金もかけて作った結果がこれか、という感じがウィングスパンDVDのインタビューから感じる。ロケストラにはペイジ、ベック、クラプトンが参加するというデマもあったが、このアルバムは買いましたよ。今となっては、いいアルバムだと思うんだけどなあ。

蛇足ながら、リリースから半年後に始まったツアーは“Got To Get You Into My Life”で幕を開け、“Getting Closer”でぶっ飛ばしたと思ったら、次は“Every Night”なんかをやる。オーヴァー・アメリカとは違うもんね、というポールの意向だろうか。そこから地味は曲が5,6曲続く。そのあとの“Maybe I'm Amazed”で歓声があがり、ビートルズを2曲ほどやったあと、また“Hot As Sun”なんていうマニアックな曲をやる。新曲を挟んで“Twenty Flight Rock”なんかやるが、こんな曲やらなくてもウィングスのヒット曲があるだろう、と思ってしまう。次の“Go Now”で歓声が上がる。やっぱり観客は、オーヴァー・アメリカの再現を望んでたんじゃないの?そのあともよくわからない。“Wonderful Christmastime”“(まだ未発表の)Coming Up”“Goodnight Tonight”をやる。彼のムラっ気が出ている気もする。そこそこ評判のいいライヴだったようだが、やっぱりオーヴァー・アメリカにはかなわず、そこには時代の風もあったんだな。

9回に亘ってお送りしてきましたリマスター記念ですが、調子に乗ってマッカートニーⅡ以降もやるかもしれません。やらないときの保険で先に言っておけば、私が好きなアルバムはオフ・ザ・グラウンドとフレイミング・パイとドライヴィング・レインです。以上。

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『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第8回「ロンドン・タウン」

Londonオーヴァー・アメリカ以降はやめてもよかったけれど、調子がいいのでもう少し続ける。
うーん、なかなかシャレオツなジャケットが数枚続いたのに、なぜかデニー・レインだけ合成画像みたいなジャケット。大減点。象徴的だね。

オーヴァー・アメリカで頂点を極めて、少し腰据えてアルバム作りをしただけあって、音はなかなかよい。でもオーヴァー・プロデュース、かもしれない。
やっぱり、前作から2曲ぐらいはこっちに入れて、ロンドン・タウンのコンセプトを統一すればよかったのに、と思ってしまう。そこはかとなーくバンド・オン・ザ・ランみたいなアルバムを狙った、というか最終的に3人になったからかもわからないが、ポールで行きたいのか、ウィングスで行きたいのか、でも結局ポールでしょ?というツッコミも予想される中、そこを混ぜてしまうとレッド・ローズ・スピードウェイやワイルド・ライフのようなことになってしまう気がする。

前作でいうところの“ Warm And Beautiful ”や、本作の“I'm Carrying”なんかはなあ…。“Famous groupies”や“Name and address”なんかは前作に入れたほうがいい気がする。そのかわり、“San Ferry Anne”と“She's My Baby”をこっちに入れて欲しい。タイトルに「ロンドン」を入れながら、“Children children”“Deliver your children”“Don't let it bring you down”のような土の匂いのする曲が散りばめられているし、“Cuff Link”なんか収録してはいけません。それ以外の曲は抜群にいいです。

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2013年5月 9日 (木)

『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第7回「ウィングス・アット・ザ・スピード・オブ・サウンド」

At日本盤よりも1ヶ月以上前に輸入盤が出回って、バンド・オン・ザ・ラン、ヴィーナス・アンド・マースと来て、ニュー・アルバムが悪いわけがないとの確信のもと、 待ちきれずに買った。

前作に較べると、インスタントな感じは否めない。本人もドメスティック・アンド・スピード・オブ・サウンドだと言っていた。バンド・オン・ザ・ランの頃に較べれば、ずいぶんポールも肩から力が抜けている。聴くほうも、力を抜いて聴けるが、その分、またまたポールの癖が見え隠れする。

前作がライヴを意識して作ったアルバムであったことを考えると、このアルバムはその反動がうかがえる。ライヴで取り上げている曲調、前作で取り上げているような曲調や手法は重複していないように思えるが、これはある意味新生ウィングスの方向性、正確にはポールがウィングスでやろうとしている方向性がはじめて現れており、次作や次々作に繋がっている。

“Let 'Em In ”“The Note You Never Wrote”と、なかなかいい流れでくる。“Silly Love Songs”も力作で、ほかの曲も力を抜いて聴けるとなれば、これで及第点だろう…。しかし。

前作のところで“Medicine Jar”を入れた試みを散々持ち上げたが、今回、“Cook Of The House”“ Must Do Something About It ”でその試みは失敗している。特に後者は、次の“San Ferry Anne”を潰している。“Time To Hide ”から繋げれば自然だが、無理やり入れたためにこの後の2曲は疲れてしまう。これは入れるべきではなかった。
“San Ferry Anne”と“She's My Baby”は次のアルバムに入っていてしかるべき曲なので、よけいにそう思う。“ Warm And Beautiful ”なんてマッカートニーにでも、ワイルド・ライフにでも入っていたらいい曲。何となく、次作でまたバンドが分解する予兆が現れている。たぶん、ワン・ハンド・クラッピングの頃のノリはなくなってきてたのだろう。

 

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2013年5月 7日 (火)

『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第5回「バンド・オン・ザ・ラン」

タイトル曲Band_3から、前作ではあまり上手くいかなかったと思う、複数曲の合体に大成功している。2曲目にベタベタのキャッチーな曲を持ってきている。
A面曲を2曲続けたあとに、間髪いれずにイントロもなく“Bluebird”のようなバラードを持ってくる。計算されている。
次の“Mrs Vandebilt”にせよ、“No Words”や“Picasso's Last Words ”にせよ、一つ間違えると前作のようにだらだらと聞かされるような曲だが、アレンジもよく、非常にアクセントが効いている。“1985”に至ってはダメ押しだ。

それに、前作のように聞き疲れしないのは、エンジニアにジェフ・エマリックを起用したことも大きいかもしれない。どの曲も音がスッキリしている。
彼曰く、73年にアラン・クラインが首になって、ようやく彼に声がかかったらしく、解散後ポールが相当苦労した様子がうかがえる。
前2作が不評で、おまけにこのアルバムのリハーサルが上手くいかず、レコーディング直前にバンドメンバーが2人抜けている(アルバムタイトルはそのことを皮肉ったもの)。さらに、アフリカでは災難続出である。

ただ、かえってそのことがポール自身にとっては良かったのかも知れない。そういった悪条件の下、自分と音楽の距離を取り直したかのようだ。このアルバム発表以降はもう一度一から、大学を回ろうなどとは言い出さない。
何より、楽曲の完成度にもかかわらず、肩に力が入ってない。上記の災難でマスターテープを失い、思い出しながら再度録音し直したらしい。この話が本当なら、予期せず十分にリハーサルをやった、ということである。
3人のコーラスも前作より格段の進歩がうかがえる。プレイもいい。実質上このアルバムでバンドは解体しているのに、かえって纏まりがある。ベタ誉め状態。「ウィングス」のサウンドができた、ということだろうか。

しかししかし、直感的には一曲一曲の完成度が高いのがこのアルバムであっても、アルバムとしては私は次作の方を私は評価している。

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2013年5月 6日 (月)

『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第4回「レッド・ローズ・スピードウェイ」

Redほとんどリアルタイムのアルバムで、相当聴いたはずにもかかわらず、私自身アルバムとしての印象が薄いのはなぜだろうか。
“My Love”以外に強烈な曲が見当たらないのも理由の一つだ。

その“My Love”以降は、ピアノ主体の曲が続く。前作が酷評されたことから、もっとマッカートニー色を強く打ち出しつつ、本人はバンド色を打ち出したいとした折衷が表れている気もする。
単純に、アレンジが良くない。1曲目の    “Big Barn Bed”から、TV「ジェームス・ポール・マッカートニー」のバージョンのほうがいい。テレビを見てからこのアルバムを聴いたから、余計にそう思ったのかもしれない。他のワイルドめの曲も、前作みたいなテイストにならないように、似たようなエコーがかかっている。なぜか聞き疲れする。

話は逸れるがポールのシングル曲は、“Another Day ”から“Coming Up”ぐらいまで、どの楽曲も完成度が極めて高い。それから言えば、このアルバムの収録曲はどれもB面曲のグレードだ。“Little Lamb Dragonfly”やWhen The Nightもいい曲だけれど長い。コーラスが酷い。たぶんビートルズでやってたら、もっとコンパクトにメリハリが効いていただろう。
デモのレベルだ。“Ram On”みたいに割り切って1分の曲にしたりもない。後半はメドレーにしているが、これもかえって散漫さを増す。アビィ・ロードや、“Uncle Albert / Admiral Halsey”のようにそれぞれの曲の個性生きる仕上がりとなっていない。“Loop”のように単調で長いインストが入っている。

結局、アソートが悪い、という印象。どうも、このアルバムにポールの仕上がりが間に合っていなかったのではないか?ポールのアルバム、というだけで売れるのだから、ジョージ・マーティンやビートルズのメンバーのように、制作時にダメ出しをしてくれる人間がいなかったのではないか?
もちろんポールでしか書けない秀逸なメロディーであり、そのレベルは平均を大きく凌駕するのだけれど、完成度はもっと上げられるはずなのに、と思ってしまう。
曲順か?例えば、

1. One More Kiss
2. Get On The Right Thing
3. Single Pigeon
4. Medley: Hold Me Tight/Lazy Dynamite/Hands Of Love/Power Cut
5. Big Barn Bed
6. When The Night
7. Little Lamb Dragonfly
8. My Love
(Loupはボツ)

趣味の問題だが、こうすると私はグッと聴きやすい(だからと言って、次作に匹敵するわけではないが…)。曲数が足らないなら、最後に "The Mess"でも入れておけばいい。
このアルバムは前作よりも好成績だったが、結構厳しい評価にも晒されたようであった。後に続く数作はこのあたりが改善されているので、本人も制作にやや不満があったのではないだろうか。

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2013年5月 5日 (日)

『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第3回「ワイルド・ライフ」

Wlワイルド・ライフを聴いたのは少し後になってからだったかもしれない。バンドのデビューアルバムで、ラフだ、ラフだとのレビューを読んでから聴いているので、そんなに驚きはなかった。
最初に印象に残ったのは“Love Is Strange”だった。時代だね。レゲエ。たぶん、ストーンズの“Cherry Oh Baby ”とか聴いていた時代とシンクロするのかも。

CDになって情緒がなくなったのだけれど、力作“ワイルド・ライフ”でA面を聞き終えたあと、裏返して“Some People Never Know”で和む、というのがある。この曲がラムの流れを一番引いている気がする。ヘッドフォンで細かくポールのピアノ・ワークを聴いていると癒される。

でも、出だしは“Mumbo”の勢い(どこが「マンボ」なんだ?)で新しいバンドの息吹を感じるけど、はっきり言って、結局B面はビートル・ポールなので、どんどんアルバム“マッカートニー”のテイストに傾いていくのが、あらら~と思ってしまう。だから私は“Tomorrow”とか“Dear Friend”とかはあまり好きではない。(“Bip Bop”もマッカートニー・テイストだけど…)

本編ではないが、“アイルラインドに平和を”は好きです。

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2013年5月 4日 (土)

『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第2回「ラム」

Ramこれとヴィーナス&マースは、思い入れありすぎで何から書いたらいいかわからない。

友人から借りた。私はNHKでTV「ジェームズ・ポール・マッカートニー」なんかを見た後からポールのアルバムを聞き始めたので、レッド・ローズ・スピードウェイぐらいまでのアルバムには必ず知っている曲が数曲あったので、このアルバムで言うと、“Uncle Albert”と“Heart Of The Country”は借りる前から知っていた。ある意味、聞きやすかった。

これは明らかに前作と違い、アルバムを作る気で作っている。いや、完成度とバリエーションが前作とはまったく違う。ウクレレ一本の曲からストリングスまで入っている。ロックからバラードから、この人の才能が余すところなくつぎ込まれている。捨て曲がない。
ニューヨークでのレコーディングはそんなに順調なものではなくて、あらためて自分がリーダーシップを取ってアルバムを作ることの困難さを当時出会ったジミー・ペイジに話している。

どの曲も手が掛かっている。オーバー・プロデュースぎりぎりかもしれないが、いろいろな仕掛けがしてあり、技術的に凄いなあと思う。ビートルズ並みだ。それでいて、以降のポールにあるような、やり過ぎたり、ラフ過ぎたりというムラっ気がみられない。

“The Back Seat Of My Car”を聴いても、この力作はゲット・バック・セッションでも取り上げられていて、当時のビートルズにやる気があればビートルズの作品として世に出ることもあったかもしれない曲だが(ジョンは嫌いだったろうなあ…)、結局前作でも発表しなかったところを見ると、マッカートニーというアルバムの経緯や、この曲をポールが大切に仕上げようとしたことなど、いろいろ想像が広がって面白い。

“Dear Boy”のコーラスの重ね方やボーカルのエフェクト、ピアノ、ドラムス、キーボード、ギターの音の入れ方。最後のピアノのミストーンみたいなものまで計算されているように聞こえる。元ネタはあるんだろうけど、こういう試みはビートルズ時代に案外ない。
このアルバムのクレジットが唯一ポール&リンダ・マッカートニーとなっていて、リンダの下手なりのコーラスがこの曲や“Uncle Albert”ではビートルズではなかったテイストを醸し出しているが、なによりポールも久しぶりに「歌って」いる。各曲微妙だが、それぞれボーカルを変えているようにも思う。
リンダの故郷のニューヨークでレコーディングする前に、相当アイデアを練って、準備して臨んだのではないだろうか。ニューヨークのスタジオでゲストニュージシャンやらオーケストラやら、お金もかかっている。どこかで本人も言っていた気がするが、本当の意味での彼のデビューアルバムなのかもしれない。

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2013年5月 3日 (金)

『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第1回「マッカートニー」

Mac久しぶりに更新しようと思ったら、ココログの入り方すらわからなくなっていた。危ない。

このアルバムを買ったのは今から40年近く前で、“John Lennon/Plastic Ono Band ”と同時に買った。今思えば、ジョンとポールのソロ第一作を同時に買って聴く、というのは、その後の自分の40年の人生を振り返ると示唆的ではある。

“Junk ”1曲のためだけにでも買う価値はある、とのレコード会社の喧伝もあり、ともかく、アビィ・ロードの痕跡を見つけたいという衝動で、当時の私としては大枚を叩いて、LP二枚買いをした。
このアルバムを入手するまえに、すでに“Maybe I'm Amazed ”は「ジェームズ・ポール・マッカートニー」で、“Momma Miss America ”はビート・オン・プラザのテーマ曲で知っていた。でも「問題の」“Hot As Sun ”や“Teddy Boy ”はビートルズの未発表曲として知っていたから、興味津々だった。

なんか唐突に始まって唐突に終わる“The Lovely Linda ”でいきなりズッコケたが、まあ、これがすべてではある。40年間にいろいろブートやらオフィシャルやら聴いてきて、ずいぶん印象も変わったものの、結局デモテープなんだな、これは。前にも書いたが、“All Things Must Pass ”が出るまでは、誰もビートルズとカブるようなことは意識的に避けていた感がある。このアルバムにアビィ・ロードの痕跡を発見しようとすることに無理があったが、それでも、“You Never Give Me Your Money ”や“She Came in Through the Bathroom Window ”の匂いはそこここにプンプンする。ひょっとしたら逆に、この2曲のほうが「マッカートニー臭」がするのかも知れないが…。

いずれにせよ、アルバムを完成させなければいけない脅迫観念で作ったアルバムではなく、何曲か録音してたら「ジョンもリンゴもジョージも出してるしなー(ヨーコとの実験、センチメンタル・ジャーニー、電子音楽の世界)、もういいや、アルバムにしちゃえ」って何曲かインストやら足して形にした感がある。でもそれでもこの水準のものができる、っていうのは凄い。プラシーボ効果かもしれないけれど。

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2008年9月12日 (金)

Chaos And Destruction In the Backyard

ドライビングレイン・ツアーで来日したとき、ポールはNHKのインタビューに、今でもYesterdayを超える楽曲を産みだしたいと努力している、と答えており、インタビュアーが「それが実現するのはいつ頃になりそうですか?」との質問に「(It's)Yesterday!」と言っていたのを覚えている。
ジョーク自体はややスベリ気味だったが、ポールの想いは真実だったのだと思う。

このアルバムを2曲ぐらい聴いたとき、「…これは傑作かもしれない」と感じたが、聴き終えるころに私は、本当に息苦しくなってしまった。
このアルバムは、ある目的のために極めてコントロールされて製作されたものであり、いわば「ポールらしく」作ったためにかえって「ポールらしく」なくなってしまった、という感じがどうも拭えないのである。

もっとも、各所では絶賛されていて、私みたいなのはたぶん少数派なのだから、嫌なら聞かなければいいだけなのだが、ブログネタにするのは「あまりに切ない」からで、しかも、切ないのは曲調ではなく、ポール自身、という、ポールの全アルバム中このアルバムのみに感じる違和感故だ。
ポールの歌には、いつもハッピーがあった。

ポールはナイジェル・ゴドリッチのスケジュールに合わせて「オールモスト・フル」のレコーディングを切り上げ、ツアー・メンバーとレコーディングに臨もうとしたらゴドリッチに拒否され、おまけに「あなたは逃げを打ってはいけない」とまで言われて作ったアルバムは、確かに無駄な音はなく、一つ一つの音も磨き抜かれている。ポールのヴォーカルもその一つだ。ゴドリッチはいい仕事をしている。「English Tea」は「Martha My Dear」を彷彿とさせる、といった評が、端的に表している気がする。ポールに時々みられる、とっちらかり感もない。
それがかえって、なんかカルトな若いファンが、爺さんを狭いスタジオに監禁して、20代のころのヒット曲を唄わせているような痛々しさを感じてしまうのだ。

ゴドリッチ一人に理由を求めるつもりはない。ヘザー・ミルズとの不和、そして一人でのアルバム作り。

少数でも、私のようにポールにハッピーを求めるファンは一体全体どうしたもんだろう。せっかく「オフ・ザ・グラウンド」以降安心して聞けるアルバムが続いていたのに。ヘザー・ミルズとの恋にまた創造力を取り戻した快作「ドライビング・レイン」のセールスは、大規模なワールドツアーにもかかわらずイギリス国内で46位だった。

結局、ケイオスを最後に、ビートルズ時代から40年以上籍を置いたEMIから離れている。

ソロになって開花、という言葉はジョージにしか似合わないが、ポールをはじめどのメンバーも開放感を聴くことができる。ラフになることがあるが、いつもハッピーだった。
「ロック・ショウ」の第二期黄金期の後、悪戦苦闘して、やっと肩の力が抜けてきたのに、ゴドリッチは心地良さを封印し、ポールもEMIも、Yesterdayの上をまだ諦めてはいなかった。

でもポール、自分でもう言ってしまったはず。

…それが実現するのはいつ頃になりそうですか?

で、この曲はケイオスではなくてドライビングレインから。とっくにイエスタデイ超えてるよ。

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