Separation
自分と出会う前の恋人に会ってみたい、と思うのは男性ならでは、なのだろうか。
「Separation」は、妻がどんどん若返る話だ。「いま、会いに行きます」の市川拓司(当時は「市川たくじ」名義「きみは、ぼくの」改題)のデビュー作だが、著者は「いま会い」をはじめ、「恋愛写真」や「そのときは彼によろしく」といった時間軸を弄る作品を次々発表することになるが、私はこの「Separation」が一番好きだ。
子供が欲しかったが、叶わなかった夫婦。妻が最近肌艶がよくなり、身長も少し低くなった気がする…。そんなところから始まって、実際の時間経過よりも速く、妻の若返りは進んでいく。
「いま会い」と違うな、と思うのは、そして私が好きな理由でもあるが、「時間軸の弄り」は「設定」であって、何が変わり、何が変わらないかをより読者に伝えようとする試みに感じられる。
愛する人が変わっていくこと、愛する人を失うことに直面するとき、何が変わり、何が変わらないのか。
老化が著しく進んでも、若返りが著しく進んでも、行き着くところは死だが、若返る場合にはゼロが予め判明している。愛する人を失う恐怖に耐えながらできることは何か。問い掛けてくることは非常に多い。
一番印象的なのは、妻が勘当同然の実家に5歳の姿で立ち寄ったことを夫に語るくだりだ。
妻は死ぬ前に両親に別れを告げたいと感じているが、結局最後まで告げない。実家の飼い犬と遊んでいると、母から食事でもしていないかと誘われ、親子3人で食事をする。うちにも、あなたのような女の子がいたのよ、そう母が言う…。
子を持つ親でなくても、ここで両親がこの女の子が実の子であることにすぐ気付いていることがわかるだろう。何ともせつない。別れ際に、本当は娘が嫁入りする時持たせてやろうと思っていたペンダントを彼女に渡す。
このほか、偶然出会った牧師夫妻の不思議な話も効いている。個人的には10年後のエピソードは不要で、もっと違うラストも用意できる気がするが、今から4、5年前に日本テレビが高岡早紀主演でドラマ化したものを思い起こせば(酷かった…)、そうも言えないのかな、と思う。
筆の力は、これまで紹介した作家に較べるとやや弱いけれど、切々と訴えるものがある。もともとネットで火が点いてから、出版されたのもわかる。ぜひ既婚男性にお勧めしたい一冊です。
立ち読みです(こっちのほうが雰囲気があります。
こっちはなぜかほとんど読めます(文庫化したものです)。
それにしても、夫婦は話す話す。小説の8割は夫婦の会話じゃなかろうか。こんなに夫婦って喋るのか?勉強になりました。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント