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2019年10月 1日 (火)

‘Anniversary Edition’ 答え合わせ編

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…痺れてる。痺れてる。
ボックスが届いてからの2日間、痺れている。

【5.1】 
まったく関心なかったブルー・レイだったが、ドルビー・アトモス、すげえ。 
ひょっとしたら今回、一番驚いて感動したマテリアルかもしれない。 

金曜からずっと、5.1の魔法陣の真ん中にいて、分厚いブックレットを一ページ一ページ大切に捲っている。 
センターを上げたり下げたり。できれば1chずつダビングしたい。お花畑の中にいるよう。 
私にとって、これは“新しい体験”だった。

【ニュー・ミックス】 
45年もオリジナルに馴染んだ私からすると、ニュー・ミックスは蛇足以外の何物でもないが、一点だけ。
Here Comes The Sunの間奏終わりの2:10、最終的にはずいぶん薄められていた、“チャン!チャン!”を強調するのはやめて欲しかった。 
この曲に45年間持っていたイメージが崩れ、いきなりダサく感じてしまった。 
解散後のジョージのこの演奏も聞き返したが、ここを強調するような演奏はなかった。

Come TogetherやPolythene Pam終わりにもジョンのヘンな声が強調してあったり、ギターのミストーンを強調したり。 
このニュー・ミックスは評価するが、つまらないところでアラい遊びがある。 
死人に口なしである。 
勝手なことをするのはやめていただきたい。 
あなたはジョージ・マーティンでもビートルズでもない。 

(追記) 
かなり辛辣なことを書いたが、iTunesではないソフトで聴いてみたら、これはまったく09リマスターとは違うものだった。 
あいかわらず私は原理主義だけれども、ニューミックスはニューミックスで生々しさを楽しむことができる。 
「蛇足」というのは言い過ぎ。

 
【豪華ブックレット】 
もともと少ないこの時期の写真が集められ、びっくりするような写真もない。 
それでも、“The long and unwinding road that~”で始まるポールの序文は感動的だ。 
曲目解説も詳しい。メトロポリタン美術館のブックレットの横に並べよう。

さて曲感想。

【I Want You (She’s So Heavy)】

ニューマスターでもビリー・プレストン全開になっていたが、オリジナルはそれも訳あってのミックスなんだから。 
もう一度言う。勝手なことをするなジャイルズ。
 
なんといっても、エンディングである。 
前半はトライデントのテイク32、後半は解説書によればリダクション・ミックスのオーバー・ダブバージョン。テイク32にはYeaaah!のあと、既にすでになんかしゃべってる声も入っていた。

後半、これだけ重ねてあって、ギターとかビリー・プレストンとかやりたい放題やってるのを聞くと、元々ジャムをするつもりだったのね。 
だから長めに録音しておいて、フェイドアウトか何かくっつけるかして終わらせるつもりだったのかもしれない。 

リンゴが叩き終えてもまだギターが鳴ってたりするのは何故?本当にこれで終わり?
いずれにせよ、長年のもやもやは解消した(ような気がする)。

あと気になったのが、解説に「1月末の“アップル・スタジオ・パフォーマンス”の合間にポールのヴァージョンが披露されている」というようなことが記載されていた。 
ぜひ来年のレット・イット・ビー50thで登場させてほしい(ゲット・バック・セッションでのジョンの演奏が映像まで流出しているので、混同があるかもしれないけれど…)。

 
【Something】

アンソロジー・バージョンにピアノを追加したデモのミックスらしい。 
ヴォーカルは同じ?ピアノが入っている分、聞きやすくなっていた。 
どうしてTake37を出さないのだろう。あれはあれで味があっていいのにね。 
 
ニュー・ミックスではバイオリンのピチカートがやたら強調されている。蛇足。

 

【Ballad Of John And Yoko】

やっとフルで出ました。 
今更ながら、ジョン・レノンって天才。 
さっさと作らないと、創作熱が冷めると思ったんでしょうね。 
このテイクでほぼ完成している。 

ただ嫌事を言うと、私は昔からポールのドラムスが好きになれない。 
よよかちゃんのほうがはるかにうまいぞ。 
なんかイナタい。 
それが個性、とも言うのですけど。 

いやあ、もっと二人ともノリノリでやってたのかと思ってたけど、そうでもない感じ。
 
あと、解説書にたぶん間違いがあって、「ポールが曲の歌詞を書き留めていた1969年のノートを見ると」とありますが、ジョンの間違いでは?原文を見るとPaul‘s~とあるので、翻訳者は間違ってないのです。

 
【Old Brown Shoe】

この曲も、Take2でほぼ完成してる。 
ここでギターは誰?問題発生。 
ジャングル・ピアノはジョージじゃなさそうなジャングルなので、ポールかジョン。 
解説通りだとしたらポールはドラムスに回っているので、ジョン。 
するとギターはジョージなのだけれど、If I grow up~のところ、歌いながら弾くのは結構難しいですよ。 
リンゴ不在、ていうのは初耳。 

【Oh! Darling】

これもほぼ完成ヴァージョン。 
 
ピアノ誰?問題も発生するが、裏でオルガンのような音も小さく聞こえる。 
 
解説ではこの日、ビリー・プレストンがセッションに参加し、I Want Youのダビングとこの曲に参加している、とのことなのだけれど、今のビートルズ史ではそんなことになっているのですか? 
勉強不足で申し訳ありません。 
4月のセッションにビリーが参加しているなんて初耳です。  

ただし、ここで聞こえるオルガンはそんなテクニックのいるようなオルガンではない。 
ポールが歌うのを途中でやめちゃったりしているのは、あくまでガイド・ヴォーカルだからか?

 
【Octopus's Garden】

リンゴがトチっても本当、暖かい雰囲気が出ている。 
リンゴも謙虚だ。 
音的にはジョージのギターが冴えまくってるアンソロバージョンがいいが、いずれにせよ、Takeごとにいろんな試みをやっているわけではない。 
この曲だけではないけれど。

 
【You Never Give Me Your Money】

これまでブートで聴けたテイク(Take30または40、基本的には“The Long One”のバージョン)以外がやっと聴けた。 
これもかっちり仕上がっている。感動。 
 
まだガイドボーカル的な趣きを残しているけれど、ポールもいろいろ試していて面白い。最高。

気になるのはギター。 
アルペジオはジョージで、エネルギッシュなソロはジョン、というのが今まで言われてきているが、解説ではソロはジョージとされている。 
 
ジョージだったらもっとテクニカルなソロを弾きそうな気がするのだけれど…。 
さらにブートのテイクでジャムに流れ込んでいくバージョンでは、もっとブイブイいわしている。 

「Her Majestyを埋め込むだけでは無為な16分」と思ってた“The Long One”だったが、やってくれました。 
ブートでお馴染みのこの曲のテイク40を正規化してくれてありがとう。 

リリースでは消えている、第2セクションの綺麗なコーラスが聴けるし、ポールのブギ・ピアノも聴ける。 
 
惜しむらくはポールの雄たけびとか、エンディングのピアノとギターがもう少し展開して、ピアノのグリッサンドとか入るところを「いい音で」聴きたかった。

ここで春のセッションは終わり。

 
【Her Majesty】

全テイク放出と埋め込みだけれど、どのテイクも同じ。 
ポールは2002年にこれを演奏した際、もう一度CD聞きなおして運指を思い出したに違いない(ゲット・バック・セッションでも気に入って弾いてたけど)。

Her Majestyの埋め込みについては、ブートのほうが丁寧(爆)。 
頭のところも、ケツのところもどちらも一瞬空いているのでは? 
私は特にケツのところが許せない。 
あそこは被るぐらいにポリシーン・パムの鋭いジャブに繋げないと。

 
【Golden Slumbers - Carry That Weight】 

Takes 1イントロでFool On The Hillを始めるのが面白い。
 
“The Long One”ではTake17が正規化。グッバイ、ワッチング・レインボー。 
Take13のポールだけのヴォーカルとピアノも好きなんだけどな。 
完成版のコーラスが使われている。


【Here Comes The Sun】

この曲のアウトテイクはほぼ聞いたことがなかったが、聞いたことがないということは、極めて短期間にレコーディングされていて(流出していない)ということか。
これもほぼ完成形で、シンセやらストリングスやら手拍子やら入らなくても、すごい魅力的。
 
【Maxwell's Silver Hammer】

ポールがイントロをリンゴとジョージに指示している(が、結局カット)。 
 
ジョンが事故で復帰する前後に短時間で完成させ、ジョン自身は演奏に加わっていないとされているが、このテイクの最後のジョークに声が入っている。  

ジョン・レノンは80年のプレイボーイ・インタビューで、「僕らはアルバム中のどの曲よりも多くのお金と時間を費やした」「覚えているのはレコーディングだけ」「100万回も繰り返させた」と言っていたが、それは誇張が過ぎる。 

結局トゥイッケナムのことを指しているのだと思うが、私自身もこの曲の魅力がわからない人なので、このバージョンでも魅力を見つけることはできなかった。すみません。ジョンのマスタードに匹敵する曲。ポールもなんとか片づけた。

 
【Come Together】

アンソロの「衝撃のTake1」を超えるバージョンではなかったけど、これも完成形。なぜか間奏終わりに止まっている。

 
【The End】

これは収穫。始まる前の試奏、異なるドラムソロ、ソロセクションンの終わり方(最後のセクションはくっつけていた!)。 
いいですね、いいですね。 
 
“The Long One”ではTake 7(RS1)が正規化。


【Sun King / Mean Mr Mustard】

ジョンもご機嫌。Sun Kingはほとんど歌っていないが、Mean Mr Mustardでジョンがなかなか渋い掛け合いを一人でやっている。 
すでにファズ・ベースも入っている。

 
【Polythene Pam - Bathroom Window 】

曲に入る前のポールの打ち合わせのあと、ジョンが「トミーみたいだ」と言っているし、カウントインもピートっぽい。 
後年ジョンはこのB面を評して、「あのロック・オペラみたいなの」と貶していたが、「ロック・オペラ?」と長年思っていた。 
なるほど。 

このメドレーの発想にトミーが関係しているとは思わなかった。 
Sun Kingのフリートウッド・マックしかり、ビートルズもちゃんと新しいアルバム聞いているのね。

いずれにせよ非常に興味深いテイク。 
ビートルズとしてはBecauseを残してはいるが、バンドセッションとしては最後になるセッション。 
 

Bathroom Window についても、ジョージのリバーブ・ギターにリンゴのドラミングがいい感じ。最終テイクへ向けて試行錯誤している。 
So I quitt~でジョンが一瞬歌い出す。 
このテイクにせよ“The Long One”のセクションにせよ、5.1も含め正規ミックスよりもジョージのハンバッカーをはじめリンゴのドラム、ポールのベース、ジョンのアコギのどれもいい。 
なぜ?

 
興味があったブリッジのフェイク・ボーカルは何もなし。 
パムからウィンドウのブリッジのところでジョンのフェイクボーカルを前へ出してくれたのはいいけれど、相変わらずポールの「カモン」「ハイ」は小さいまま。 
もっとあるでしょーよ。

5.1ではジョージのリバーブ・ギター、ディレイがかかる、かかる。ジャイルズ遊びすぎ。

【Because】

ひたすらジョージ・マーティンのハープシコード、ジョンのギターとベース。 
それにリンゴの手拍子。ジョージは何を? 
アンソロジーのボーカルのみより聴きやすかった。
 
あのボーカルも、どうせなら9つに分けて聞かせて欲しかった。

 

【Something [Orchestral – Take 39]、Golden Slumbers [Take 17]】

オーケストラだけか…と期待していなかったけど、少しセンチメンタルな気持ちになった。
ビートルズに対するレクイエムになっている。 

アニバーサリーエディションで披露されたセッションズ。ペパー、ホワイト、そしてアビィ・ロードはそれぞれ違う。 
 
ペパーはレコーディングの過程、ホワイトはリハーサルの過程、そしてアビィ・ロードは完成の過程を見せてくれた。 
 
何せ本作は新曲が少ない。「試しに録る」なんてことはせず、レコーディングの前に十分な打ち合わせがあり、ほとんどの曲はTake1からほぼリリースバージョンと変わらない出来。実験的なのはI Want Youだけ。 
 
ともかく、手元にあるマテリアルの完成。遅れているアルバムリリースの解決。 
その目的に向かって、ビートルズはジョージ・マーティンの指示通りに仕事をした。 
どの曲も、もう曲の熟成とか待っていなかった。そんな時間はなかった。 
 
熟成していないんだったらメドレーにすればいい。 
いまあるマテリアルをともかくリリースできるレベルまで短期間で持ち上げるプロの仕事。 
東芝EMI風に言うなら「錬金術」。スピードがあったからこそ、グループ内も安定していた。  

ポールもメアリー・ホプキンスやアイビーズのように、自分の曲ではビートルズをプロデュースしている。
ジョンも、もういいかな、と思っただろう。
 
長年、アビィ・ロードに持ち続けていた疑問が、気が付けば疑問ではなくなっていた。 
思い描いていた、ビートルズ最後の仕事。そんなものはなかった。 
4人のミュージシャンが短期間に一つの目標に向かって取り組んでいるだけだった。
 
…ただし、それでも“The Long One”の随所では、往年のビートルズのグルーヴを聴くことができる。

それで十分だ。(2019.9.30)

 

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