« 2017年7月 | トップページ | 2017年10月 »

2017年9月

2017年9月 2日 (土)

2017年、夏休み自由研究。

The_abbey_road_9


今年の夏は、よくアビィ・ロードを聴いた。

先に書いた音源に触発された。

追記になるがあの音源を調べるうちに、それらは大体、今から8年前にビートルズのゲームが出た際に、ジャイルズ・マーティンがいろいろ掘り出してくれたものから寄せ集められたものだった。
そんな音源を辿ってブートを探っていると、私が高校時代に欲しかったプロユース盤、それから大学に入って少し興味が薄れた頃に出回っていたモービル・フィディリティ盤、日本の初回回収盤の音源を入手することができた。
ついで、といってはなんだけれど、手元にある音源を片っ端から横並べにして聴いてみた。

①プロ・ユース盤

②79年ごろのアナログ日本盤

③モービル・フィディリティ盤

④83年盤(いわゆる「回収盤」)

⑤87年盤

⑥09年盤

⑦自称“モノラル”盤

⑧Rock Band盤

⑨24bit USB

これらはいずれもデジタル化されたものをいったん私のPCに落とし、それからちゃちMP3プレーヤーに落とし、ちゃちイヤホンで聞いたものですので、最初にお断りしておきます。

本当は①の前に74年頃に買ったアナログ日本盤を入れたかったが、押し入れからは出てこなかった。ホワイトアルバムとともに、どこに行ってしまったんだろう。中坊時代、片方のステレオずつ聴いて“I Want You”や“Polythene Pam”でポールの小さなフェイクボーカルが聴こえたときは喜々としたものだった。
内容的にはおそらく、②とほぼ変わらないものと思う。当時両方とも所有していたが、同じプレーヤーで聴いていて違和感はなかったから…。

(調べたところ、私が当時買ったのは73年盤で、「A面の野性味、B面の叙情性 何人も否定し得ぬビートルズ・ミュージックの錬金術―」というキャッチ・コピーのついたひょうたん帯でした。
それに対して①は、ひょうたん帯のあと76年に有名な国旗盤が出て、それからプロ・ユースとピクチャー盤を挟んで①の79年ボックス・セットがプレスされているようだ)

長くなるが一つずつ説明する。

① プロ・ユース盤

それにしても、プロ・ユース盤は凄かった。発売当時、私は高2だったが、少し高かったので買うのを躊躇した。当時の私はこの音の違いに感動しただろうか?
 ネットでこの盤の感想を追うと、区々であるけれど、私の耳にはリマスター盤ほどではないが音圧が高く、高音、中低音とも出ていて、特にA面の曲でリンゴのスネアが跳ねているのがわかるし、ピアノでコードを連打すると耳が痛いぐらい。
UKオリジナルに近いのは、この盤のように思う(私が聴いたことのあるオリジナルの印象ですが)。24bitよりも臨場感を感じることができた。

②79年ごろのアナログ日本盤

 私がアビィ・ロードを買ったのは74年の秋だった。その盤を擦り切れるほど聴いた後、80~81年頃にLPのボックスセットを買ったのだけど、その中の一枚。時代はすぐにCDになったのと、大学時代プレーヤーを持っていなかったので、この盤はほぼミント状態。

 はっきり言って、これはこんなにいい音がするなんて思ってなかった。あるいは、こんなにいい音で中学、高校、大学とアビィ・ロードを聴いていたなんて!と感動した(正確にはテープに落としたものを)。

 まず、分離がいい。これは後述するが、たぶん…デジタルマスタリングせずデジタル化すると、ある音の左右バランスなど、微妙な音がカットされて情報量が少なくなるのかもしれない。“Come Together”のマラカス音も非常によく聴こえるし、他の曲でもストリングスがよく聴こえる。デジタルに比べて音圧がやや低い(でも④⑤よりも高い)分を持ち上げてやると、高音も低音もそこそこ出ている。

ただし、分離がいい分、イヤホンで聞くと、若干ドタバタする。45度角の音の定位なんてない。90度、90度(笑)。ま、それはちょっと極端な言い方だけれど…。

後で⑦のところでも触れるが、聴き比べて感じたのは、ビートルズはステレオ・ミックスしか作らなかったこのアルバムでさえ、モノで聴いた時の音像をイメージしていたのではないか、ということだ。

③モービル・フィディリティ盤

ネット情報では、カッティングのみならず、独自のイコライジングが施されていることも公表されているらしい。
高音域がかなりカットされているようで、ボーカルがやや引っ込んで聞こえたり、シンバルのチンチンいう音は聞こえない。かなり中低音に触れた音、もう少しくぐもった音。

不思議なもので、このイコライジング、ある意味耳障りな高音が聞こえなくなり中低音のリズムが強調されると、ノる。コーラスが「聞こえないから」すごく綺麗に「聴こえる」。普段高音にかき消されているジョージのフィルインや、ムーグの音がよく聞こえたりする。これはこれでアリだと思う。なんか、アビィ・ロードの新しい聴き方を呈示されたような気になった。

④83年盤(いわゆる「回収盤」)

②の79年頃のアナログと聴き比べると、一気にデジタルの音になる。中低音の出が違うのと、②とはバランスが異なっているが、これはマスタリングを触ったのではなく、「触らなかった」からこんな音になったのでは?

⑤87年盤

はっきり言って、今回この音が一番ショボかった。デジタルの音だが、痩せて聴こえる。高音も低音も出ていない。ベースも、エレキの低音とやや被っている。この音を長らくデフォで聴いていたとは…。

仮説その2。ジョージ・マーティンはCD化に際し、④の音になるのを回避したのでは?
ヘルプ!とラバー・ソウルはミックスをやり直しているし、このアルバムに関しては“I Want You (She's so heavy)”のホワイト・ノイズが、CDのダイナミック・レンジでは聴くに堪えない音になるのではないか、とエンジニアが懸念した話が「レコーディング・セッション」にも記載されていた。…②④に比べ、少し落ちているかな?

仮説その3。当時(69年)は、結構適当なステレオ・ミックスだったのかもしれない。要は「モノラルで(ラジオから)出てきた時に、どんな音になるのか」ということに心血が注がれたのではないか?

⑥09年盤

書くまでもないが、音圧が違う。詳細は⑨で。

⑦自称“モノラル”盤

もうひとつ、捨て置けないのが出所不明なモノラル音源である。これがいい!
単にステレオミックスをトラックダウンしたものだろうが、定位の動きに耳を奪われることもない。もっと音が飛んでしまうかと思っていたが、“Come Together”のマラカスも聴こえる(拘る!)。

なぜかわからないが、ビートルズはモノ、と云われる所以を感じてしまうのだけれど、仮説その3を確信。蛇足だが、プレイリストにモノ・ボックスを入れているのだけど、そこに入れてシャッフルしても何の遜色もない。

⑧Rock Band盤

09年、ジャイルズ・マーティンが「ケーキをもらったとき、すべての食材を分けて、あなたが知らないうちにそれを元に戻しておく」作業で作ったゲーム用のリミックス。

ゲームはプレイヤーがギタリストかドラマーかベーシストにならなければいけないが、当時のビートルズは少ないトラック数でレコーディングしていたため、それぞれの演奏はマスターでも分離していないものが多く、あらためてマスターからトラックを分離させてマルチトラックを作り、それを再度ミックスするという作業を行ったもの。

ゲームの45曲(47曲?)に加え、ラバー・ソウルとペパー、アビィ・ロードの3枚はアルバム単位で作業されている。ゲームなので、それぞれの曲にカウントインが入っていたり、チャットが入っていたりする(“Her Majesty”にジョンの大声のカウントが入っているなど、意味不明なのも多し)。

リミックスはできるだけ元のミックスを崩さないように行われたらしいが、私が気づいたの“I Want You (She's So Heavy)”のビリー・プレストンのオルガンが中央に定位しているな、とか、Her Majestyが右から左に回らないな(たぶんボーカルを分離するためと思われる。“Sun King”のイントロなんかは回っている)、ということぐらいだった。ところどころフェイクボーカルも残っている。

⑨24bit USB

モービルもプロ・ユースもそれぞれ個性的だが、感心するのは24bitのUSBだ。一言で言えば、「音の情報量が多い」。

例えば「赤い屋根」と言うとき、アナログは赤一色だけれど、デジタルは何種類かの赤系統の色で屋根が塗られているのが私でもわかる。時に光沢の有無さえ感じられる。地上波と、ハイビジョンの違いと同じ。

特に楽器、ベースの音が顕著で、モービルもプロ・ユースも正規盤よりも低音は出ているものの、音色は赤を強くしたり、弱くしたりといった変化しかない。これでは、リンゴがシンバルのどのあたりを叩いているのかもわかる。

さて総評。デジタルがすべからくいい、というわけではない。

4Kが8Kになって、近眼で老眼の私に情報量は多すぎないか。
モービルやプロユースのようにカッティングから見直し、それぞれの制約の下で特性が決定される。デジタルのような解像度を競うのではなく、それぞれのアビィ・ロードの解釈が提示されている。

デジタルは贅沢である。贅沢したい場合はできるだけ24bitを聴く。しかし、当時のEMIがベストとしたUKオリジナルに近づこうとしたのはプロ・ユースだろう。でもビートルズはこのアルバムまでステレオ・ミックスの制作の原則は「モノ・ミックスを基準にする」としていたならば、目指したのはモノかもしれない。待て、モービル盤の暖かさも捨てがたい。

そんなことを考えながらアルバムを聴くと、なんかいい食材をいろんな料理法で味わうような贅の極みである。
実は、上の9種類以外にも音源をいくつか聴いた。マルチ・トラック・セパレーテッドも聴きなおしたし、16bitも聴いたし、Rock Bandのカラオケバージョンも聴いてみた。飽きない。

そうなんだ。このアルバムは、素材に本当に素晴らしい仕事がしてある。音質、音圧、音像、そんなことを脇に置いて、43年間聴いてきた名作である。

そのことがあらためて感じられた2017年の夏だった。

 

(追記)デアゴ盤は未聴です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年7月 | トップページ | 2017年10月 »