『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第5回「バンド・オン・ザ・ラン」
タイトル曲から、前作ではあまり上手くいかなかったと思う、複数曲の合体に大成功している。2曲目にベタベタのキャッチーな曲を持ってきている。
A面曲を2曲続けたあとに、間髪いれずにイントロもなく“Bluebird”のようなバラードを持ってくる。計算されている。
次の“Mrs Vandebilt”にせよ、“No Words”や“Picasso's Last Words ”にせよ、一つ間違えると前作のようにだらだらと聞かされるような曲だが、アレンジもよく、非常にアクセントが効いている。“1985”に至ってはダメ押しだ。
それに、前作のように聞き疲れしないのは、エンジニアにジェフ・エマリックを起用したことも大きいかもしれない。どの曲も音がスッキリしている。
彼曰く、73年にアラン・クラインが首になって、ようやく彼に声がかかったらしく、解散後ポールが相当苦労した様子がうかがえる。
前2作が不評で、おまけにこのアルバムのリハーサルが上手くいかず、レコーディング直前にバンドメンバーが2人抜けている(アルバムタイトルはそのことを皮肉ったもの)。さらに、アフリカでは災難続出である。
ただ、かえってそのことがポール自身にとっては良かったのかも知れない。そういった悪条件の下、自分と音楽の距離を取り直したかのようだ。このアルバム発表以降はもう一度一から、大学を回ろうなどとは言い出さない。
何より、楽曲の完成度にもかかわらず、肩に力が入ってない。上記の災難でマスターテープを失い、思い出しながら再度録音し直したらしい。この話が本当なら、予期せず十分にリハーサルをやった、ということである。
3人のコーラスも前作より格段の進歩がうかがえる。プレイもいい。実質上このアルバムでバンドは解体しているのに、かえって纏まりがある。ベタ誉め状態。「ウィングス」のサウンドができた、ということだろうか。
しかししかし、直感的には一曲一曲の完成度が高いのがこのアルバムであっても、アルバムとしては私は次作の方を私は評価している。
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