『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』リマスター記念 ポールのアルバムについて 第6回「ヴィーナス・アンド・マース」
イロイロ揉めたが、ジミー・マカロックの影響というのは大きかったのではないだろうか。60年代後半からのニュー・ロックの影響をもろに受けた世代と一緒に仕事をするのは初めてのはず(何よりその前の世代は自分たちなのだから)。
ジェフ・ブリットンはこのアルバムでは“Love In Song ”“Letting Go ”“Medicine Jar ”の3曲に参加して辞めているが、その前の“Junior's Farm”から参加している。私はこの曲のPVが大好きで、この曲が大好きだ。やっと、ポールがバンドしている感じ。映画「レット・イット・ビー」の頃の感じ(…まあ「ワン・ハンド・クラッピング」ももう一度同じことをやっているような感はあるが)。本人もこの曲が好きなようで、何度かライブで試みてはうまくいかずに諦め、今年のライブでもやっている。
前々作までは、ポールとリンダ以外はセッション・ゲスト、みたいだったが、バンド・オン・ザ・ランの成功と若い2人のバックアップで、やっとビートルズの向こうを張るべく、バンドしている。もう完全に自信を取り戻して、「次はライヴだ!」という空気が伝わる。この曲にしても「ワン・ハンド・クラッピング」にしても、ライヴのリハーサルだ。
「若い2人のバックアップ」は本当に大きく感じる。前作が落ち着いてからのツアーになるので、もういっちょアルバムを作らなければいけないが、ポールがやりたいツアーのイメージがそのままアルバム製作となっている。そのイメージを具体化したのは、この2人だと思う。残念ながら健康志向のジェフと、ヤク中のジミーは合わずにジェフは抜けたが、イメージができればあとは録音するだけだったのではないか。
1曲1曲はどれも、シングルカットできるぐらいよく出来ており、前作に引き続いてアレンジも工夫されている。その中で注目するのは“Medicine Jar ”なのだが、冒頭ジミーの影響が大きかったのでは、と書いたのは、昨日今日加入した一回りも下の若造の、しかも自分が書き下ろしたのでもない曲をボーカルを取らせてアルバムに入れている、というのは驚く。ポールのバンド志向と言えばそうなのだが、これはギャンブルだったのではないか。
時代は、“Rock Show ”の歌詞に出てくるとおり、ハードロック後期である。ポールはここに「寄せて」いっている。それが浮き上がらないようにする工夫(アレンジ)もしているので、前作以上にアルバムにグラデーションが付いている。この1曲は効いている。
ちなみに、A面では自ら“Letting Go ”をやっているが、シングルはポールが期待したほどヒットしなかったことに落胆したらしい。このほかにもポールは、アルバムでこの若造に真っ向勝負をしている。“Magneto And Titanium Man ”や“Call Me Back Again ”とか聴くと、「どうだ、俺の引き出し」と言っている(気がする)。
あとは、このアルバムを中心にライブをやり、ところどころに過去のヒット曲を散りばめれば、大成功は約束されたも同然なのであった…。
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