箱から取り出す作業、箱にしまい込む作業
舌の根も乾かないうちに、リマスターに触れて置きたい。
ともかく一旦それぞれの箱から取り出して音をPCにぶち込むと、すぐに元に戻した。したがってそれぞれ一度ずつしか箱から出していない。
全曲をシャッフルしたり、アルバムごとに聴いたり、ある曲を取り出したりして、だいたい全曲を網羅した今の印象として、ポールのベースが際立つのは下馬評通りだが、ジョンのミュートや、リンゴが刻むカウントや、オルガンの音、ストリングスのきっかけまで聞こえる。また、これまでの1、ソングトラック、ネイキッド(ラブは‥)といった音の提示と比較しても、最も曲本来のイメージを損なわないように神経と敬意が払われている。
よりビートルズが目指した音に近付いたかどうかは別として、楽器、ヴォーカルの音がそれぞれリアルになる、ということはライヴ感が出る、ということである。これはもう、諸手を挙げて賞賛したい。何せ、マイナーな曲でも少なくともこの35年間に何百回は聞いてきた音が、コラージュやリミックスではなくて、新鮮さやダイナミズムを得た、のだ。おそらく、この35年で、一番興奮しているかも知れない。
一方で発売された“モノ″。わざわざ、モノである。この最新ステレオ・リマスターと同時に、当時ビートルズがこだわったモノ・ミックスを、CDでマスタリングする。
一部には「音がこもる」とか言う輩もいるようだが、これはモノなんだから、「ステレオ」で聴いてはいけない。モノなんだから。ヘッドフォンもNGだ。できれば大きいスピーカーで、セパレートタイプではないできるだけ大きいスピーカーで聴いてほしい。
‥このモノの素晴らしさは、ステレオの素晴らしさを超えてしまうかもしれない。さよなら、Dr.Ebbets。こんなに素晴らしかったんだ。サージェントのリプライズなんかチビッてしまった。
ともかく書き出すときりがない。が、今回私にとって何が素晴らしかったかと言えば、ステレオとモノの両方が同時リリースされたことである。すでに述べたとおり、ステレオは40年以上前のマスターテープから、ひとつひとつの音を取り出して丁寧にレストアし、ビートルズが現役時代にはなし得なかった、音の再現を行った。これはステレオ・リマスターの作業。
そしてビートルズは現役時代、自分たちがいろんなミックスを試みて、またリダクション・ミックスを繰り返し、最終的に一つのトラックに収める作業を行っていた。ステレオよりモノを選んだというよりは、ビートルズの音楽性は当時収斂されなければならず、トラック数もそうだったし、演奏時間もそうだった。なんとか自分たちの音楽を詰め込んだ。その音の再現もまた、図られた。モノ・リマスターのチームは、すでに箱にしまい込まれた音にリミッティングは行わず、丁寧にリストアを施した。
今回のリマスター作業は結局、箱から丁寧に取り出す作業と、箱にしまい込まれたものを一旦取り出し、丁寧にしまい直す作業だったのかもしれない。そのいずれにもビートルズの煌きがあり、両方の作業を見せることで、この狭間に存在したのがビートルズであることを教えてくれた。しかも、この仕事にはスタッフの愛情が感じられる。
2009年の秋は深く、長くなりそうだ。
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コメント
ごぶさたしてますー
ボックス発売以来、いつ投稿があるかと待ち構えておりました(笑)
上官殿も大喜びのようです
http://ameblo.jp/iron-liver/entry-10339376269.html
自分はまだ、ステレオは箱を開けて中身を眺めただけで、ディスクは封も開けておらず、もっぱらモノを少しづつ聴いています。ただいま、"Help!"まできてます。
それぞれ、自分の家で聴いていたUKモノラル盤の印象と、心の中で対比させながら聴いたりしてますが、聴こえ方の印象がかなり違う曲も登場してきたりして、「ビートルズ海賊盤事典」を引っぱり出してミックス違いだったのかを確認したり、UK盤やキャピトル盤を聴き直してみたりと、いろいろ寄り道をしながら、時間をかけてます。たいへん楽しい時間です(^^)
モノのCDの音は、こもるというより、天井を感じると言うか、どっしりと音が存在してる感覚が、最初違和感を感じましたが、手で触れると思えるような存在感とゆーことは、やっぱり素晴しい音だと思えるようになりました。これから先を聴くのが楽しみです。
オールディーズの紙ジャケも見てみたかったですねぇ。
投稿: へびつかい | 2009年9月12日 (土) 17時40分
ごぶさたです!
ツッコミどころ満載のコメントありがとうございます。では順番に。
>もっぱらモノを少しづつ聴いています。ただいま、"Help!"まできてます。
あの、細かいようですが“For Sale”までは先週までもモノだったのですが‥リマスター作業の検証と順番に拘られたのですよね。
>自分の家で聴いていたUKモノラル盤の印象と、
おいおい、プレミアだよ~(笑)
>「ビートルズ海賊盤事典」を引っぱり出して
これもプレミアだよ~(爆)。でも実は私も同じなんです。昨日は「テイク違い」の章をエクセルに転記したりしていました。
キャピトルボックスの時もそうだったのですが、未だに重宝するのですよ。
>手で触れると思えるような存在感
ほんと、モノばっかり聴いています。
結局、ミックスがいいんでしょうね。
>オールディーズの紙ジャケも見てみたかったですねぇ。
私あんまり外側に興味はないほうなんですが、ステレオボックスの各CDのセロハンをカッターで切った際、内ジャケを結構傷つけてしまいました。何せ慌ててPCに放り込んでいたので‥。その心的外傷からもステレオボックスは再度開いていません(笑)。
ともかくオールディーズも再発して欲しいです。あれでしか聴けない“She Loves You”“From Me to You”のも聴きたいし、裏ジャケは日本のみやげ物やでしたっけ。あのアルバムになんで“Bad Boy”が入っているのは、イギリスで唯一の未発表曲だから、と長年言われてきましたが、どうも“This Boy”と間違えたらしい、という話を最近知りました。
あとステレオボックスに収録されている「モノ」と、モノマスターズのモノと被る曲が4曲ほどありますが、あれの意味がわかりません。書き出すと本文より長くなるのでまた(爆)。
投稿: '59 | 2009年9月13日 (日) 09時02分
んでは、ツッコミを受けさせていただきます(^^;
ビートルズのCDは、これまではアンソロジーとかネイキッドとか、ブートとか(笑)、そういうものは購入してましたが、オリジナル・アルバムはレコードを持っていただけで、ずーっと買い直していないんです。CDを買ったのは、"Help"と"Rubber Soul"だけですね。理由は’59さんならおわかりかと思います。なので、CDでモノ盤を聴くのはこれが初めてに近いです。昔CDになった時、モノとステレオの扱いが中途半端に感じて、いつの日か出し直されるに違いないと、ずーっと待ってたんですよー(^^)。
UK盤はですね、角川文庫のビートルズ詩集の後書きに書いてあった「シングル盤を22枚、LPを13枚、そしてEPを1枚そろえれば、ビートルズの解散までの作品を自然な形で持つことが出来る」という文章を実感したくて、ずーっとトライしてきて、やっと数年前に目標達成しました。目標の傍らでUS盤も手を出しちゃったのはお約束な感じですが(莫迦)
聴くことを優先に集めたので、安いやつで針飛びしなければいいってなもんなので、プレミアものはほとんどないです(^^;。
んで今回、ミックスの聴こえ方がキャピトル盤に近いような曲があったりしたので、「海賊盤事典」をひも解きつつ、レコードと聴き比べてみたりしつつ、みたいな感じですねー。自分も’59さんと同じこと(エクセル)やろうと思いましたけど、時間がなくてまだです。’59さん、ファイル完成したらぜひ欲しいです(笑)
諸事情で週末はあまり進まなかったので、今週は"Pepper"あたりまで聴き進めたいと思います〜
投稿: へびつかい | 2009年9月13日 (日) 19時38分
>角川文庫のビートルズ詩集
うわっ、めっちゃ懐かしいなあ!へびつかいさんとは朝まで飲めますね。ビートルズネタが尽きたら楽器ネタもあるし(爆)。
(公式)CDはあまりお持ちではない、というのは意外でした。プレミアはないが、ラバーソウルの音が大きいとか、リボルバーの中央の刻印に1が入っててtommorow never knowsがなんかおかしい、とかそういうことないですか?もしそんな盤なら定価で引き取らせていただきます(笑)。
キャピトルボックスが出たころに、私が初めて買ったビートルズのUS赤盤をもう一度聴きなおしてみたら、凄いよかったんですよね、これが。CDの中低音に埋もれてしまった倍音がいっぱいあるんだろうなあ、とか思ってしまいました。USの派手なミックスも影響したのかもしれませんが。
>ファイル完成したらぜひ欲しいです(笑)
ファイルの完成はリマスター作業のように、慎重に行われております(笑)。
投稿: '59 | 2009年9月13日 (日) 20時17分
いや~いや~ 誰ですか?(笑)
実にお久しぶりです。いつの間にかブログで復活していたんですね。
巷ではビートルズのCDで盛り上がってますが、すみません、私はルネッサンスのDVD発売で盛り上がってます(笑)
雑誌やCD屋においてあるチラシを見ると、かつては駄作扱いだった、私の大好きなマジカルミステリーツアーが、名曲揃いとの評価に変わっていたりしているのが、なんとも言えず、くすぐったいような、面映いような感じです。
投稿: Brian Beckmore | 2009年9月25日 (金) 00時42分
いやまあ、お久しぶりです。うれしいです。元気でしたか、って、こんな挨拶もない(笑)。3年ぶりですね。最後にお話しさせていただいたのは、ビリー・プレストンが亡くなった時で(笑)。
>巷ではビートルズのCDで盛り上がってますが、すみません、私はルネッサンスのDVD発売で盛り上がってます(笑)
すごいっすね。私は実は宮殿40周年が本当に出るかが気になっています。あれ?
マジカルもそうですが、ホワイトアルバムもレット・イット・ビーも、ペパー以降はアビィ・ロード以外辛かったですよね。サブマリン?
まあそれにしても、ビートルズ関連で辿り着いていただくのが一番うれしいです。何か最近ググルと引っかかる項目もあるようで(笑)。これからも時々遊びにきてくださいな。話題は何でも結構ですので。
くれぐれも次はレット・イット・ビーがDVD発売するとき、とかではないように(笑)。
業務連絡:へびさん、下記サイトなかなかいいっすよ。
http://www.geocities.jp/ifeelfine_22/b4contents/mixdif.html
投稿: ’59 | 2009年9月25日 (金) 20時49分