Things Have Changed
引き続き、ボブ・ディランで。
偶然だが、やっと“NO DIRECTION HOME″を見たのと、“TELL TALE SIGN″を聞いたのがほぼ同時だった。
ディランについては、いつも疑問に思うことがいくつもある。そのうちの一つが、「この人のマネジメントは、一体誰がやっているのか」ということだ。
今回の“TELL TALE SIGN″は4種のリリースがあるが、2枚組と3枚組の価格差が1万円以上というアンリーズナブルな 価格設定がされており、当初発売を予定していた国内販売は見送られている。
ディランのリリースに纏わる話は、“BLOOD ON TRCKS″の差し替えや“UNPLUGGED″の回収、二十数年ぶりの“GREATEST HITS″などなど、枚挙に暇がない。何か、伝説を作らんがためにわざとやってるの?とさえ思えてしまう。だから、リリースされなかったものが数多く、ブートレッグ・シリーズが8本目になっても、内容はどうかするとリリースされたものよりも素晴らしい。だからアンリーズナブルであっても数万円を注ぎ込んだりする…という循環が成立するのかもしれない。
先の映画“NO DIRECTION HOME″を見ても、オッサンは昔から好きなようにやっている、ようにしか見えない。
でも業界はそんなに甘いものではないはずだ。ビートルズにしろ、他のレジェンドにしろ、ビジネスに囚われる。前回書いた伝説の数々を、すべてプロモーションだと言ってしまうことだってできるのだが、まあ、あの歳になって年間あれだけの数のライブをこなし、毎年何らかのリリースを認めていれば、何も問題はないのかもしれない。
今回の“TELL TALE SIGN″だって、本人がどれだけ関わっているかはわからない。山のように持ち込まれる企画、オファーの一つであり、そのなかに映画やDJもあったのだろうが、最初からディランがほとんど関わることはなく完成し、最終段階でディランが“NO″と言えばどれだけ完成していようと、…発売した後ですら、ボツになる可能性があるのかも知れない。
そんな訳で、われわれはアウトテイクを先に買わされ、後ほどオリジナルをまた買わされる(言い過ぎですが)のだが、考えれば考えるほど凄いことだ。この人の死後はどんなリリースがされるのか。
ツアー数もハンパではない。中山康樹は「ギャラが安いから」だと言う(「ディランを聞け!」より)。確かにステージは質素で何の演出もないが、チケットは7年前でも1万円だった。
聞くところによると、ギャランティ以外が結構大変で、ことに宿泊先に相当神経を使うらしい。市井の暮らしに触れるべく、街中に泊まらないで外れのモーテルに行くだとか、急にスイートに泊まるだとか、またキャンセルするだとか、いつもベロベロに飲んでるだとか、このあたりも伝説に事欠かない。
しかし何より伝説は、「ライブの中に自らを見出だした」とされる、もう20年も続いている“NEVER ENDING TOUR″だ。
アレンジを変えるどころか、歌詞も間違えるし、毎日演奏曲は変わるし、メンバーですら当日渡されるキューシートを見るまでわからない。好き放題のソロ。はっきり言おう。もう声も出ていない。ステージはグダグダもいいところだ。
しかし、ライブを目撃した者は、紛れも無く伝説に立ち会っている。
彼が人生を終えたと知る時、私は深い喪失感に襲われるだろう。そして気付く。奇跡はたった一度起こったのだ、と。
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