« BECAUSE | トップページ | 8月8日 »

2008年8月 8日 (金)

I WANT YOU (SHE' SO HEAVEY)

この曲は、「強烈」であり、「鮮烈」である。
それはいつも語られるエンディングのみならず、たった3節しかない歌詞のメッセージ性、ジョンの素のヴォーカル、絶叫、リンゴのヘヴィなドラムス、ポールのあらん限りのコーラス,ジョージのギター・ワークはまさにビートルズの断末魔だ。
“YER BLUES”“DON'T LET ME DOWN”と進化してきたジョンのベクトルの端である。そして、この曲こそこのアルバムの中で“HUGE MELODY”に対抗するビートルズ・ソングである。エリック・クラプトンや、アラン・ホワイトや、クラウス・ヴーアマンでは完成しない、ビートルズ・ソングである。
その点で、私はこの曲を“COME TOGETHER”以上に買っている。

“BECAUSE”との関係

最初に“ABBEY ROAD”を聴いた時のことを思い出して欲しい。
“I WANT YOU”と“BECAUSE”のテーマ・リフが似ているとは思いませんでしたか?

2つの曲は3連と4連でまるで違う、という方もあるだろうし、飛躍に過ぎるとお叱りを受けるかもしれない。まるで岩肌や木葉が人の顔にも見える、と言うようなものだと一笑に付されるかもしれない。


“I WANT YOU”のテーマ・リフとなっているアルペジオは、“JULIA”や“LOOK AT ME”なんかで聞けるジョンがよく弾くアルペジオでだが、このリフは最初から演奏されていたわけではないようである。1月28日(らしい)テイクでは、ジョン一人でエレキの弾き語り(!)となっているが、テーマ・リフはない。翌1月29日、または2月22日のレコーディングで登場したのかどうかはわからない。

ちなみに、“GET BACK SESSION”ではアニマルズの“THE HOUSE OF THE RISING SUN”を演奏しており、ジョンがヴォーカルを取っている。このテイクは、アルペジオのフレーズのみならず、極めて“I WANT YOU”を連想させるものだ。

しかし最近のYOU TUBEは何でもある‥

お話戻って、彼はこの曲のアレンジを試行錯誤するなか、生まれたもう一つの曲が、“BECAUSE”なのかもしれない。“LOVE”の下書き、とも云える歌詞を載せて…。
それをベートーベンになぞらえることは、コルトレーンが“BALLADS”を完成させた際に、「マウスピースがたまたまなかったので、ブローの少ないバラードを録音した」と語ったような、一種のジョークではないのか?


リード・ギター、ジョン・レノン

この曲のギターには相当ジョージと時間をかけたようである。そういったギタリスト同士の緊張感の中、すばらしいものに仕上がっていると思う。
ヴォーカル・ユニゾンのギター、カッティング、テーマ・リフそのあと!ギターのトグル・スィッチをリアからミドル(ミドルからフロント?)に切り換える音が2度も入っている…。

そしてこの、ソロに入るタイミング。まるで密林を大蛇がのたうつような、ゾクゾクする感じ…。

このあたり、どうもジミ・ヘンドリックスあたりの影響を感じる。ジョンはエレクトリック・レディランドを聴いてた?現実にこのセッションを終えると、すぐにポールを除く3人はワイト島に飛んでフェスティバルを見に行っている。

このソロ、レスポールの音っぽいのでジョージが弾いている説が有力である。
しかし、ジョンが映画のアウトテイク・フィルムでヴォーカル・ユニゾンのギターを弾いているシーンがあること、また、ジョージが弾くのならもっとテクニカルなフレーズだと思えること、どちらかと言えば“GET BACK”のソロに近いこと…を理由に、ジョンのリード説も捨て難い。どちらかと言うと、ジョンが弾いていると“信じたい”。

ちなみに、ポールの曲でジョンがギター・ソロを弾く、という意味では“GET BACK”は異例、とも言えるが、ブートなどを聴くと、リハの初期はジョージが結構テクニカルなソロを弾いているように聞こえる。
しかし、映画で見られるポールとジョージの口論(“TWO OF US”の演奏についてのようである)の後、ポールの曲でソロを弾くことにわだかまりが出来、それで仲をとってジョンが弾いたのではないか、と思うフシもある。

また、異例の1曲に、“HONEY PIE”がある。これも最近まで知らなかったが、ジョージがこのジョンのプレイを絶賛している。
“MAXWELL'S~”の項ではこき下ろしたが、あらためてこの曲を聴くと、これが良いのだ。
(ただ、モノ・テイクはちょっとミスが目立つが‥)

誰かの声

ジョンの絶叫のあと、よく聴くと誰かの声が入っている。
マーク・ルウィソンによれば、“I WANT YOU”のこの声は、「コントロール・ルームから不満を表すこもった声」とされていたが、トライデントで2月22日に録音されたテープを聞いて、メンバーの誰かがマイクなしに喋った声であることが判明した、としている。そうか。英語人はこういう喋り方を「不満を表している」と解釈するのか。勉強になった。
しかし私は25年前から、これもポールの合いの手に聞こえ続けている。ちなみにこの箇所以外でも聞こえているようにも思う。

ポールの“I WANT YOU”

どうしてもここで触れておかなければならないことがある。
おそらく、“ABBEY ROAD”のアウトテイクのうち、もっとも物議を醸していると思われるのがこの“I WANT YOU”であり、しかもポールがヴォーカルをとるヴァージョンがある、というものだと思う。
このことは、この曲のレビューをするうえではやはり触れた方が、曲の成り立ちが一層明らかになると思うので、触れる。

しかし最近のYOU TUBEは本当に何でもある‥

この真偽については、マニアの間でも非常に楽しく議論がされている。
特に月太郎さんのサイトにはこの話題に限定したページが設けられ、非常に詳しい。

月太郎さんはまず自分の結論を提示されたのち、かつ疑問点も提示されている。そのうえで閲覧者の意見を募り、それにはコメントを加えることなく、そのまま紹介されている。
月太郎さんのサイトにしたがって、私の意見を述べさせていただくとしたら、「贋作である」。

ポールのものではない以前に、ビートルズのものではない。
理由は、月太郎さんのサイトにアップされている方で、「贋作」を主張されている方の理由とほぼ同じではあるが、少しコメントする。


(1)演奏が拙すぎる。

ビートルズは、上手いバンドである。クラブ回りやら、音の聞こえないスタジアムやら経て身に付けたライブ・テクニックもさることながら、66年からはレコーディング・テクニックを極め抜いている。アンソロジーを聴いても、ブートを聴いても思うことは、必ずレコーディングには充分なリハーサルを踏まえて臨んでいるように思えることだ。

映画“LET IT BE”のイメージがあるから、60年代のロック・シーンからすればビートルズの生演奏が酷いものに思えたかもしれないが…。

また、この曲が2月22日にトライデントで正式録音されたものであれ、ボーカルテストのためのリハーサルを誰かが盗み録りしたものであれ、演奏が拙すぎるし、曲がりなりにもレコーディング・スタジオから流出したものにしては音が悪すぎる。モニターを拾ったものだと仮定したら、今度は音が良すぎる…。
この時期の可能性として、映画のフィルムから落とされたもの、ということはあるかもしれないが、それにしてはちゃんと録音しようとした形跡が感じられる。

ルーフトップ・コンサートの数曲を聞けばわかるが、ビートルズは、こと録音、ということになれば、野外だろうがどこだろうがきちっとチューニングも行い、かつタイトな演奏をするバンドだと思う。ジョンのリード・ギターだってヴォーカルだって冴えている。

特に、どなたかがアップされていたように、とりわけこれは“リンゴのドラムではない”。
リリース・テイクのリズム・パターンをよく聴いて欲しい。1、2番とギターソロの3番、そして4番のリズム・パターンは異なり、非常に凝った作りになっているのに対し、あのテイクは全部同じパターンである。これも“リハ”だからかもしれない。
では“~it's driving mad,it's driving me mad…”の部分のリリース・テイクに較べて酷く単調なドラムス、ベースはどうか。これも“リハ”だからだろうか。


一人一人のプレイもワンパターンだし(そこが似ている、という人もいるが…)、特にアンサンブルが悪い。長年やっているビートルズは、お互いがグルーヴするポイントを心得ているが、この曲にはそれがない。
とりわけ、それぞれのパートのフィル・インには特徴があり、ワン・パターンである。ワン・パターンというのは、ビートルズの手法ではなく、ハード・ロックの手法としてのワン・パターンであるということだ。この演奏の延長線上にリリース・ヴァージョンはありえない、と思う。

ヴォーカル・ラインをギターでなぞった後に7thや9thのカッテイング・コードを入れるのはもともとブルースの手法ではあると思う(リリース・ヴァージョンでも効果的に使われてはいるが,、このヴァージョンは使いすぎ)が、これをこういう形で使うのが当時のハード・ロックの流行りであり、ドラムスについても、必ず倍で叩くフィル・イン、ベースのオクターブの使い方、そしてまたこういうパターンを循環してやること自体もハード・ロックの手法ではないのか?

ビートルズは、新しいことを次々に開発して取り入れたが、基本的には彼らのルーツである50年代のロックン・ロールの手法がベースにあると思う。
この後に及んで自分達の完成した演奏手法を棄て、クセは強いが簡素なハード・ロックの手法をそのまま導入する理由がない。この可能性を疑うなら、“HELTER SKELTER”を聴いて欲しい。これはリリース・ヴァージョンもアンソロジー・テイクも、完全にビートルズのグルーヴになっている。

思い入れが激しくて恐縮だが、私にも僅かながらバンド経験がある。今もであるが、なんとビートルズのコピーは難しいのだろう、と感じている。こんなに簡単にコピーできるような代物ではない。


(2)“SHE'S SO HEAVY~♪”のフレーズは、8月になってから追加されたものである。

というのは私の仮説ですが…。
題名も8月に“I WANT YOU (SHE'S SO HEAVY)”と改題されている。8月11日にはその部分のハーモニー・ヴォーカルを再録音した、との記録もあるが、(SHE'S SO HEAVY)と改題されていることからして、ハーモニー・ヴォーカルを重ねただけで改題するのだろうか?というのが私の疑問である。そもそもこの“SHE'S SO ~HEAVY”のフレーズ自体が新たに挿入されたからこそ、この曲が完成し、改題もしたのではないか?

ちなみにここのラインの唄い方が違い、フェイクであるならばなぜ忠実に唄わなかったのか、それはこの曲が2月22日にトライデントで録音された初期ヴァージョンであるからだ、とのご意見もある。
トライデントのオリジナル・テープが使われているという、後半3分7秒を良く聴いて欲しい。特にベースとドラムス。これが同じバンドの同じ日の演奏だろうか?
唄い方が違うのは、このバンドがそこそこ腕のあるバンドだからではないんだろうか?もともとフェイクを目的に作られたのではなく、カバーするつもりだったから、ではないのか?


(3)同時にブートに収録された、“I NEED YOU”と同じ演奏者による録音である。

ヴォーカルも同じ。フィル・インで倍叩くドラムスも同じ。録音状態も非常によく似ていると思う。「ジ・アイビーズ」による演奏だという説もあるらしい。
これらの曲がビートルズだというのなら、“HAVE YOU HEARD THE WORD?”の方がよっぽどビートルズらしい、と思ってしまう。(あの曲すら、後年ジョンに否定されている。)

かなり乱暴な書き方をしたことをご容赦いただきたい。私も相当、冷静さを失ってしまった。
もっとも私は、ブート音源がポールのヴォーカルではない、と申し上げているわけではない。私がお伝えしたかったのは、リリース・ヴァージョンはそれとは比較にならないほど素晴らしい、“古典的な”ビートルズのグルーヴに裏打ちされている、ということなのである。


“There! Cut the tape there.”

非常に鮮烈なエンディングである。それまでの分厚い循環するリフのエンディングとしては最高である。これも、このアルバムのストイックなイメージに貢献している。
エンディングのホワイト・ノイズも凄い。87年のCDリリースの際、EMIのエンジニアが本気で心配した、というのが良くわかる。
ちなみに、今日まで“THE BEATLES AT THE HOLLYWOOD BOWL”がCD化されない理由の一つが、あの歓声のCD化に問題があることも十分考えられる。


ビートルズはよく、お遊びをやってきている。“WHITE ALBUM”で言うと、“LONG LONG LONG”“HELTER SKELTER”“HAPPINESS IS A WARM GUN”“I'M SO TIRED”“PIGGIES”…。終わると見せかけて、なにかオマケをつけている。
“BUNGALOW BILL”はオマケで一旦ホッとさせておいて、突如ジョージの曲になってしまう。ジョンにしてもポールにしても、ソロアルバムでも頻繁に会話やら音やら残している。
穿った見方かもしれないが、レコードに付加価値を付ける。一つ前のアルバムなんか、曲間を全部それでやろうとしていた。
この曲の斬新なアイデアを“お遊び”と言ってしまうとミもフタもないが、最後まで気が抜けない。A面の最後を唐突に切り落としているが、符合するようB面の最後の“HER MAJESTY”の最後の一音も切り落とされている。極めて計算されている。

…ところで、本当に“There! Cut the tape there.”なんてジョンが言ったのだろうか?言いそうだけど、ちょっと誇張が入っていないか?
だいたい、テープを聴いている時に、言ってからすぐに切っても、間に合わないのではないか?!
iいずれにせよ、私はポールのヴォーカル・ヴァージョンよりも、ほんとはあと20秒あったテープの最後に、ビートルズはどんなエンディングをやらかしているのかを切に聴きたい。


ポールの髭、ジョンの髭

“I WANT YOU”のレコーディング風景を撮影した写真がある、と言って驚く人は、かなりビートルズに傾倒している人で、驚かない人はもっと傾倒している人か、あるいはあまり傾倒していない人か、傾倒の仕方が異なる人である(何のことだ‥)。

GET BACK BOOKの写真だが、よーく見て欲しい。

右の方でコーヒーを飲んでいますが…見えにくい?

Hige

ポールに髭がない!


これでどうだ!
Higenasi

これらの写真は、奇妙だ。
なぜなら、アップル・スタジオのセッション使用は1月31日までで、この日の様子は映画で見られるとおり(“LET IT BE”演奏シーンなど)ポールは髭をたくわえている。
その次のレコーディング・セッションは2月22日のトライデント・スタジオまで延期され、“I WANT YOU”をレコーディングしている。

では、これがトライデント・スタジオの風景か、と言われればそうとも言えない。他のショットで確認した天井の造形等、映画に出てくるアップル・スタジオに酷似している。それに、2月22日のセッションに参加していたはずの、ビリー・プレストンの姿もみられない。
とすれば、レコーディング・セッションは1月31日に終了したものの、翌2月の5日には再びアップルでルーフトップ・コンサートのミキシング作業が行われていることから、ビートルズはレコーディングこそしなかったものの、何らかのリハを行い、その際のショットの可能性は高いものと思われる。

しかし、である。

(1)リンゴが参加していたかどうかは不明だが、2月3日から“MAGIC CHRISTIAN”の撮影がスタートしている
(2)ジョージが2月7日から15日まで扁桃腺手術のために入院している
(3)ジョンの髭が伸びている!
(4)ポールを除く全員がセーターを着込んでおり、ヒーザーはコートまで着ているからかなり寒い日だったと思われる
(5)ジョージがレスポールを弾いているから、かなりハードな質感の曲を演奏していることが推測される(とは言っても、髭なしポールのショットは2種類あり、ダンガリー・シャツでベースを弾いているものとストライプシャツでスライド・ギターを弾いているものもあることから、必ずしも“I WANT YOU”と言えないけれど…)。
(6)ジョンがボーカルをとっているショットがあること
(7)2月のいつからかは判らないが、アップル・スタジオは2月に全面改装工事にとりかかっていたこと…

などから、必ずしも2月5日説が有力とも思えない。

みなさんが髭を剃るとしたら、どんな時だろうか?
それを考えると、やはり映画のクランク・アップでポールが剃った、と考えるのが妥当だろう。もう撮影がないのだから、完成したシーンの繋ぎでポールに髭があったりなかったり、ということもない。
そして同時にジョンが何らかの理由で“今度は俺の番だ!”とばかりに伸ばしはじめ、以降70年の1月20日までそのスタイルを保った。

私は、撮影日は2月5日またはその前後、撮影場所はアップル・スタジオ、そして演奏しているのは“I WANT YOU”、そういう結論にしたい。(01・3) 

|

« BECAUSE | トップページ | 8月8日 »

ABBEY ROAD」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。ポールの歌うのはfakeだと思って
いましたが・・・写真には本当にびっくりしました。
ありがとうございます。

投稿: 彩菜 | 2008年8月17日 (日) 20時37分

コメントありがとうございます。
ビートルズって、あとから続々新事実が出てくるので面白いですね。

投稿: '59 | 2008年8月19日 (火) 04時05分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: I WANT YOU (SHE' SO HEAVEY):

» 「Come Together」 [やさしいThe Beatles入門]
「Come Together」は、「アビイ・ロード」の1曲目に収録されています。 [続きを読む]

受信: 2008年8月18日 (月) 16時51分

« BECAUSE | トップページ | 8月8日 »