SUN KING
・アルバトロス
さて、ここから3曲ジョン・レノン作品が続く。
“YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY”の虫の声のSEの向こうから、ゆったりとしたレズリー効果のかかったギターが聞こえてくる。この連結部は8月5日に完成されたもので、それまでの試験盤では“YOU NEVER~”のフェイド・アウトに続いてジョンのハモンド・オルガンの単一コードがフェイド・インしてきている。
左右に移動するギター、リンゴのバスドラ、それまでのビートルズにはないサウンドで、これ以前にもこれ以降のジョン・レノンにもこういったサウンドはみられない(強いて言うならば“JULIA”“LOOK AT ME”“YOU ARE HERE”あたり?)。“ABBEY ROAD”サウンドを印象付ける一曲でもある。ビートルズの全員が力を注いだ感がある。
“I WANT YOU”などはフリートウッド・マックの“BLACK MAGIC WOMAN”に、“SUN KING”が“ALBATROSS”にインスパイアされている、と言われている。インスパイア、どころか“まんま”である。
ジョージ(ハリスン)は、ちょうどその頃“ALBATROSS”が出たばかりだったんで、ジョンが「フリートウッド・マックの“ALBATROSS”をやろうぜ」と言って始めた、とまで言っている。著作権請求した方がいいぞ、ピーター。
“COME TOGETHER”といい、このアルバムに提供したジョンの楽曲はどうもそういう話が付いて回る。ほんと、ジョンにとってこの頃のビートルズは、「やっつけ」だったのだろうか。
・SUN KING/DON'T LET ME DOWN
GET BACK SESSIONの初日、69年1月2日のリハーサルでは、ずーっとこの曲のイントロの(ジョンオ得意の)アルペジオを奏でた挙句、“DON'T LET ME DOWN~♪”と唄っている。この試みが行われたのはこの日だけのようで、特に意味はないのかもわからないが、ジョン自身は“DON'T LET ME DOWN”のイントロを模索していたのかもわからない。
“DON'T LET ME DOWN”の、“nobody ever love me like she does~”のバックの変拍子のリズムは、“SUN KING”のそれに相通ずるものがある。
・ジョン・レノンとニュー・ロック
“SUN KING”をアルバトロスのパクリ、と言って終わってしまってはつまらない。
確かにこの2曲に何の因果関係もない、などと言うつもりはないが、1969年である。すでにクリームも、ジミ・ヘンドリックスも、レッド・ツエッペリンも世に出ている。今となっては死語、どころか遺跡のような言葉だが“ニュー・ロック”台頭の時代である。
面白いなあ、と思うのは、果たしてジョンがフリートウッド・マックを聴いていたか?というあたりである。話は逸れるが、ジョンはディランでさえ「ブロンド・オン・ブロンドのあとは両耳で聴くのをやめた」とまで言っているが、ウソつけ、このセッションの後もリンゴやジョージとワイト島に飛び、ライブを見ている。テニスまでしている。
ジョン・レノン・アンソロジーに収録された“SERVE YOURSELF”等を引用するまでもなく、終生、ディランを強く意識していたことは間違いないと思う。
そんなふうに、ジョン自身、「ジョン・レノンらしく」振舞おうとしていたと思える部分 ― 例えば他人の音楽を聞かないことを自称することなど ― と、本当にそうだったんじゃないか、と思える部分が絶えず同居しているように感じる。
詳しくはまた別の機会にするが、ビートルズ、特にジョンとポールは、音楽的な交遊関係が実は狭いのではないか、というのが私の仮説だ。
ジョージがニュー・ロックを聴いていたとしても何の不思議もないのだけれど、ジョンが聴いていて「やろうぜ」と言う、というのは非常に面白いなあ、と思うのである。
あれほど、やれロッド・スチュアートの“MAGGIE MAY”は“DON'T LET ME DOWN”のパクリだ、ストーンズの“MISS YOU”は“SCARED”のパクリだ、ビージーズはビートルズのパクリだ、B52はヨーコのパクリだ、“MY SWEET ROAD”は自分で蒔いた種だ、でも“COME TOGETHER”は“YOU CAN'T CATCH ME”じゃない、と言ってきたジョンが、である(←悪意はありません)。
確かに“WHITE ALBUM”以降のジョンの作品は、ニュー・ロックの影響が窺える。ゲット・バック・セッションでもその前月にロックン・ロール・サーカスで競演したフーの“A QUICK ONE WHILE HE'S AWAY”とか弾いている。
ヨーコと出会ってより実験的な方向に進みつつ、一方ではフリートウッド・マックをはじめとするブルース・ロックや、ニュー・ロックををジョンが聴いたりしていた、と想像できるであろうか?先に書いたとおり、そういうことを否定するジョン自身がいるとすれば、どちらが実像に近いのだろうか?
ジョンにせよポ―ルにせよ、ニュー・ロックに対応する言葉として「オールド・ロック」の信奉者であり、また60年代には自らもその旗手でもあったとも言えるわけである。
解散しなかったストーンズは、自分たちの音楽に流行を敏感に取り入れていく。ビートルズが解散しないでいたら、さらにその後のニュー・ロックやらパンク・ロックやらの時代をどう乗り切っただろうか。
例えば、“HELTER SKELTER”やら“I WANT YOU”の延長線上にある音楽をやっていたのか、それとも“FREE AS A BIRD”なのだろうか…。
・ロス・パラノイアズ
「僕らはよく、自分達のことをロス・パラ・ノイアズって呼んでたんだよ」とジョンは言っている。何となくスペイン語の響きと“パラノイア”を引っかけているのだろうが、“SUN KING”の原題はロス・パラノイアズだった、としている文献もあるし、この曲の後半にはスペイン民謡(!)「ロス・パラノイアズ」のメロディを借りている、としている文献もある。
ところが、アンソロジー2には“WHITE ALBUM”のレコーディング中にポールがギターでジャムっている曲が「ロス・パラノイアズ」として収録されており、クレジットはビートルズの4人となっている。しかしこれはスペイン民謡というより、もう少しR&Bっぽい。
YOU TUBEでも、このタイトルの曲はたくさんあり、どれもが何かスミスみたいな曲だった。誰か教えてください。(08.7)
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