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2008年7月11日 (金)

SOMETHING

・脅威?

“ABBEY ROAD”A面のうち“SOMETHING”“OH!DARLING”“OCTOPUS'S GARDEN”“I WANT YOU (SHE'S SO HEAVEY)”と、B面“YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY”は69年4月の中旬から約4週間に亘って行われたセッション(別名“HOT AS SUN”セッションとも言われる)でベーシック・トラックが完成している。
このアルバムは、短期にかつ集中して制作された傑作、とされているが、約1/3にあたる17曲中5曲は、ドラフトはすでに4月にできていたわけであり、7月には仕上げるだけだった、とも言えるわけである。
この曲も、5月2日にリメイクのベーシック・トラックが完成している。

インドから帰ってきてからレコーディングされたジョージの曲は、どの曲も立ち上がりがいい。(“IT'S ALL TOO MUCH”“THE INNNER LIGHT”“BLUE JAY WAY”とかも好きだけど…)なかなか言葉にすると難しいが、それまでの曲に較べて曲の輪郭がはっきりしてきているように思う。
それに、インドのみならず、交友関係の広がりを反映してアーティストとしての成長著しい時期であったのだろう。

この曲はジェームズ・テイラーの1stアルバムに収録されている「サムシング・イン・ザ・ウェイ・シー・ムーヴス」(是非、元歌を聴いてみたい…)に着想を得て、ピアノで書いた曲と云われており、またレイ・チャールズを思い浮かべて書いた、とも云われている。シナトラをして、「過去50年で最高のラヴ・ソング」と言わしめている。
68年9月に行われた“PIGGIES”のレコーディングの際に、初めてクリス・トーマスにこの曲を聞かせると絶賛したため、ジャッキー・ロマックスにこの曲を提供しようと考えたらしい。

ゲット・バック・セッションについてアンソロジーのインタビューの際、ジョージはこう言っている。「…(68年後半の)半年間は、ジャッキー・ロマックスのプロデュースとしたり、ディランやザ・バンドと演奏をしたり楽しかっただけに、(ゲット・バック・セッションは)惨めだった。」

そのゲット・バック・セッションでは、少なくとも“SOMETHING”“ALL THINGS MUST PASS”“FOR YOU BLUE”“HEAR ME ROAD”“I ME MINE”“ISN'T IT APITY”“LET IT DOWN”をリハーサルしている。ホワイト・アルバム終了から僅か2か月、「惨めだった」割に、これほどの新曲を提供している。
にもかかわらず、“FOR YOU BLUE”だけしかレコーディングせず、自分のプレイにケチをつけられたら誰だった腐る。腐って家に帰って書いた曲が“WAH-WAH”なのだから、この時期のジョージの創作意欲には目を見張るものがある。
極めてネガティブに考えれば、このことはジョンとポールを脅かす行為だったのではないだろうか。こういった楽曲をボツにしながら、片やネタに困って“ONE AFTER 909”を引っ張り出したりしているのに。

1月28日のリハーサル・テイクを聴くと、この時点でもほぼこの曲は完成している。
“~I,don't,know!”の後の印象的なフィルイン(で合ってますか?)のベースラインも、この際にジョージが口とギターで示している(相当「地味に弾いて欲しい」とポールに懇願したらしい)。ポールも「わかったよ、君の言うとおりにするよ」とか言えばシャレが効くが…。

あまり冗談が過ぎるとお叱りを受けるのでこの辺にするが、クリス・トーマスに絶賛されてから約10ヶ月、練りに練った完成品となった。
セッション終盤の8月15日、この曲のオーバーダブで指揮棒を振った後、再度ギター・ソロを録り直すまで行っている。(ジャズ・ベースを弾いている写真もあるので、やっぱりベースも自分で録り直した?)
こうした心血を注いだ結果、この曲は自他ともに認める彼の最高傑作となっている。

・“SOMETHING”

皆さんがこの曲で一番グッとくるところはどこだろうか?私は“I don't want to leave her now,you know I believe and how”だ、間違いなく。歌が始まって、ずーと盛りあがって、いきなりオクターブさがるようなしみじみ感。これはポールにはあまりなくて、やはりレノンやディラン系。

とりわけ“I don't want to leave her now~”の部分は、盛り上がるのではなく静かに引くところがよい。ここはジョージでなければだめ。この後にくるサビの“I don't know~”の部分が好きだ、という人の方が多いと思うが、そこの部分ならば、シナトラやシャーリー・バッシーがより情熱的にカバーしている。

曲作りもギター・テクもこの頃本当に向上しているように思う。これらは、やはりディランやクラプトンらの影響なのだろうか?私も長年のディラン・ファンだが、これはわからない。
ギターもベストだと思う。いわば、この人がクオーリーメンから弾いてきたギターの一つの完成形であり、極めて美しい。この後のジョージのソロで好きなのは、“HOW DO YOU SLEEP?”(ジョン)“REAL LOVE”かな。

私もときどきギターを触るが、ビートルズは難しいから弾かない。でもこのソロだけはぜひ弾けるようになりたいと思い、何度もギターを手にとってみたが、このニュアンスは結構難しい。
ギター以外のパートも、完膚なく素晴らしい。ベースも素晴らしいし、ギターも素晴らしいが、よく“効いている”のがドラム。はっと気がつくと、ドラムに合わせてノッてしまう。しかもこのアルバムでは、全体的にビートルズ独特のサウンドが非常に洗練されている。8トラックがフル活用されているのだろうか…。

そういったサウンドを含め、この曲の魅力はタイトルどおり、“SOMETHING”である。例えばタイトル一つとっても、こういう“漠然”としたモノの云い方は、ジョンとポールはしてきていないと思う(“WOMAN”“MY LOVE”とか)。
ポールもジョンも、このアルバムの中で一番いい曲である、と認めているが、一つには、この曲はこれまでビートルズの文脈にはあまり存在しなかった楽曲なのかもしれない。もっとも、この曲以外にも長いメドレー、ソロの回しあい、リズムトラックがほとんどない3声コーラス‥と、ビートルズは単にホワイトアルバムの延長にあるアルバムを作ろうとはしておらず、グループとして様々なトライアルを行っている。
しかしこの曲は、このアルバムの雰囲気を特徴づけ、このアルバムもビートルズの作品の中において超然とした位置を決定付けている、と言うと言い過ぎだろうか。
少なくとも、文字通り“ABBEY ROAD”に“何か”を付け加えた一曲、と言うことは許されるのだと思う。

・TAKE37

ブートの話で恐縮です。
7月11日に作られたリダクション・ミックスは、オーケストラが入っていないこととヴォーカルが少し違うことを除けば、ほぼ完成版に近い。オーケストラが入っていない分、それぞれのパートが生々しく聞こえ、このヴァージョンもなかなか捨て難い美しさがある。

しかし、このヴァージョンにはびっくりするようなオマケがついている。演奏時間は5分に及び、リリース・ヴァージョンのエンディングの後にさらに2分32秒のインストゥルメンタルが演奏されている。すでに5月2日に作られたTAKE36の段階で録音されたようだが、これは何だろう?

感じだけ説明すると、“MAGICAL MYSTERY TOUR”の曲後みたいな感じ、とでも申しましょうか。もっともあれはエンディングに向けてテンポを落とし、繋がっていますが…。あるいは“BACK SEAT OF MY CAR”の曲後、といったところだろうか。

ブートなどでは、“SOMETHING/REMEMBER”と表記されているものすらある。ジョンの“REMEMBER”のイントロやバックのピアノ・ストロークに似ているので、このリフがそのまま導入されている、と説明されているサイトもあるが、別にジョンのヴォーカルが始まって爆発しているわけではない(当たり前)。

このインストゥルメンタル・エンディングが付けられた理由は何だろうか。

(1) TAKE36のピアノはビリー・プレストンが弾いているらしいので、このエンディングのキッカケはピアノのなので、ビリーも入ってノッた演奏が出来たので、そのまま演奏を続けてしまった。
(2)ポール(かまたは誰かの)アイデアで、こういったコーダ部分を作り、ボーカルを入れるつもりだった。
(3)メドレーのブリッジとするつもりだった。

(1)について、私は否定的。というのは、お世辞にも「ノッた演奏」とは言えず、何かフェイドアウトできるようにだらだら演奏している、という感じ。
(2)について、5月2日のTAKE36では本編もヴォーカル録りしていないから、これもあり、か。
(3)これが実は一番濃厚なのかもしれない。その根拠は、セッション最終盤の8月19日のミックスでやっとこの箇所が削除されている。
というわけで、私としては(3)を支持します。

それにしてもYOU TUBEは凄い。このTAKE37の音が入っているものがありました。
前半は“GLASS ONION”のアウトテイクも入っています。

ともあれ、だらだらとなってしまいましたが、何よりもこの曲は完成した佳曲です。この曲を聴くと、もしこのアルバムにメドレーが一切なかったとしたら、といったことを考える。もし当時のビートルズに、そういったマテリアルと時間があったなら…なんて考える。(01・9)

何なら4分35秒まで送ってください。

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