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2008年7月25日 (金)

SHE CAME IN THROUGH THE BATHROOM WINDOW

・フェイバリット・オブ・フェイバリット

このアルバムは私が今までに聴いたアルバムの中で最も好きなアルバムだが、この曲はその中でもおそらく1番好きな曲かもしれない。
理由については自分でもよくわからないが、おそらく他の曲以上にバンド演奏らしさが残っており、その“熱”が感じられること、ポールのヴォーカル・スタイルが好きなこと、ジョージのディレイが深くかかったギターが好きなこと…総じて、セクシーであること、といったところだろうか。

またまたブートの話で恐縮だが、大昔にワクワクしながらブートの名盤“SWEET APPLE TRAX”を聴いた。ご存じない方のために簡単に言えば、映画“LET IT BE”のアウトテイクで、音質も良く、内容も充実しており、その中にこの曲のリハーサルも延々収録されていた。
蛇足ながら、今ではアンソロジー3でリハーサル・テイクを聴くことが出来るので、わざわざブートの話に迂回して書かなくともよかったのであるが、当時はこの曲の、リリース・テイクとの違いに驚いたものである。もっとスローなブルース、といった感じである。セクシーさはない。

68年10月17日に“WHITE ALBUM”の作業が終了すると、ポールはリンダとニューヨークへ飛んでいる。10月末には再びロンドンに戻っているが、3人でイエロー・キャブでJFケネディ空港に向かう途中、そのダッシュボードに取り付けられた運転証明書にポールはインスパイアされたらしい。

【Name : Eugene Quits (ex-policeman ) 】    (氏名:ユージン・クイッツ(元警官))

これが歌詞の“So I quit the police department~”(それで警察署を辞めて~)のラインとなったらしい。
(名前のquitをモジッたシャレになっている)

・ジョンからポール、そしてジョージとリンゴのブリッジ

“POLYTHENE PAM”の46秒あたり(繋ぎの部分)で、ほぼ同時に左チャンネルから“HEY”(ポール)、右チャンネルから“KLEIN!(アレン?)”(ジョン)のカウント・インがあり、30秒近くジョージのギター・ソロが入る。

このことについては“POLYTHENE PAM”の項で触れたかったが、この曲までガマンしていた。CDではジョンのカウント・インから“BATHROOM WINDOW”になるから、このブリッジは“POLYTHENE PAM”のトラックの一部になっており、それがCD化に際しての「ビートルズの解釈提示」とも言えるのだけれど、この曲がなければブリッジもないだろうから、私はあえてこの曲のイントロと解釈したい。

このアルバム中、“I WANT YOU”のソロはジョージが弾いたかどうか不明であり、“THE END”は企画っぽいので外せば、ジョージのコンストラクトされたギター・ソロは“SOMETHING”“OCTOPUS'S…”とこのブリッジの3ヶ所だけではないだろうか。いずれも、非常にいいギターである。実に巧いギターだと思う。
ジョンの曲からポールの曲のブリッジとして、バスドラ踏みまくりのリンゴのリズムをバックにジョージがギター・ソロを弾く、というのもなかなかシャレている。こういった細かいことが、実際にはバラバラであっても、このメドレーに一体感を与え、ビートルズ最後の輝きを見せていると言ってもよいと思う。

・誰かの声PARTⅡ

“I WANT YOU”でも書いたが、“POLYTHENE PAM”の56秒のところで左チャンネルから小さく“come on,”59秒手前で“hi,”というポールの合いの手が聞こえる。ポール、と断言するのは声質と、左チャンネルはだいたいポールだから(“だいたい”か…)。

さらに、7月30日のラフ・ミックスと称して(ブートで)出回っているテイクでは、今度はその後ジョンがカウントとなるべき合いの手、というか、おふざけに近い言葉を聞くことができる。1分4秒のところで“…paap”、同6秒で“…that's great”、同9秒で“…real(feel?) good luck,”、同11秒で“…feel good”、そしてリリース・テイクに唯一残っている“BATHROOM WINDOW”のアタマの“oh,*** out , hehe… , oh, look out!…(it's…)”のカウント・インになるわけである。ジョンも一生懸命やっているのだ。

ひょっとすると、“HEY ! KLEIN !”からずーっとジョンかポールがカウントを入れていた可能性もあることになるのではないだろうか。ぜひこれらのカウントインがすべて明瞭に聞こえるベーシック・トラックを一度聴いてみたいものである。

・ママ・ミス・アメリカ

ジョージのギターをベタ褒めしたあとで何だが、私の心の中では、ほんの少しだけ呵責を感じることがある。ブリッジからこの曲全編で聴かれるディレイのかかったギター、本当にジョージか?と問われると、100%そうだと断言する自信がない。

“McCARTNEY”に収録されている“MAMA MISS AMERICA”は途中から曲調が変化するが、変ってからのポールのギター・ソロをぜひ聴いて欲しい。サウンドがひじょーに“BATHROOM WINDOW”に似ている。
もっとも、こちらはセミアコ(カジノ)っぽいし、ソロのテクニックにしても“BATHROOM WINDOW”の方が一枚上に感じてしまう。恐らくはジョージだと思うのだけれど、いずれにせよ、恐るべしポール、である。

・THE“2ndヴァース”

何しろ、力作である。“MAXWELL'S”“OH ! DARLING”などと同様、ビートルズは半年以上も試行錯誤を繰り返してきている。この2曲に較べ、1月のヴァージョンから相当に変化している。

1.演奏スピード。

  私の大好きな“ONE AFTER 909”もそうだけれど、初期ヴァージョンからはかなりテンポアップしている。もっとも“TWO OF US”のように最終ヴァージョンがスローになる方が異例かも知れないが…。

2.バック・コーラス。

  ジョンとジョージが付けている、と記載されている書物もあるが、ポールが一人で何回か重ねている、としている書物もある。みなさんのご意見をうかがいたい。
  このコーラスは“OCTOPUS'S…”ほかこのアルバムの随所で聴ける美しいハーモニー・コーラスであるが、ブレイクで始まるこの曲のポールのヴォーカルの直後、スーッと入ってくるのが美しい。

3.ギター。

  1月のテイクでは、他のリハーサル曲と同じく、ずっとジョージがワウ(オート?)のかかったギターを  弾いている。リリースはディレイのかかったジョージのギターと、“POLYTHENE PAM”から連なるジョンのアコースティック・ギターがもっともこの曲の雰囲気を変え、印象付けている。

4.リンゴのフィル・イン。

  これはこの曲の随所で強烈なアクセントとなっている。

これだけではない。2ndヴァースは凄い。1stヴァースのあとのサビのエンディングでジョンのギターが一音多いところから始まっている。リンゴのフィル・インに続いて、1stヴァースと打って変わってポールのベースが暴れ出す。

また、2ndヴァースだけはコーラスを入れる替わりに“パシッ!”という何かを打ちつけるような音が入っている。これが何の楽器かはわからないが、1回目の音と2回目以降の音には違いがある。記録はないが、何となくリンゴがなにかを叩いたのか、あるいはムーグかもしれない。

面白いのは、3回目まで4拍の裏で入っていたのが4回目で1拍飛ばして1拍目の裏になり、次も1拍目の裏で、最後に4拍の裏に戻っている。ここでは非常にテクニカルなことをやっている。ビートルズは奥が深い。

また、2ndヴァースの“she worked at 15 clubs a day”の直後に誰かの声(おそらくポール?)で“…oooh”というエコーのかかったフェイク・ヴォーカルが入っているように聞こえる。前述の“come on”ではないが、偶然ベーシック・トラックの声がダビングの末薄れて残ったのかもわからないが、これもなかなか良い。

そして2ndヴァースのあとはサビにはいかずに3rdヴァースに移るが、まるでエアコンの吹き出し口口からの吹く冷風のように、再度1stヴァースで聴けたハーモニーが入ってくる。

率直に言って、1月のヴァージョンは単調である。この完成版は、単調にならないよう曲構成から随所にいろいろな試みがなされ、わずか1分57秒にテクニックが凝縮されている。そう考えると、パシッの拍がずれていたり、フェイク・ヴォーカルが聞こえたりするのも、あながち計算ではないとは言えないはずである。

なお、1月のリハーサルではピアノ・ヴァージョンがあり、またアップル・スタジオに移ってからはエレピ・ヴァージョンを聞くことができるが、「グランド・ピアノの方がサウンドがいい」とかポールが言っている会話も入っている。…最終的にはピアノもエレピも入れられたと記載されているが、派手なギターとドラムス、コーラスにかき消されていて、私には聞き取れない。

・サンデーちゃん?(いっぱい疑問形)

この曲はもともと、ポールの家にファンが侵入し、ポール自身がこんこんと説教したことが元となっているとも言われている一方、ジョンはこの曲を評してリンダのことを唄っているのかもわからない、と言っている。
さらには、“protected by a silver spoon”“didn't anybody tell her?”といった部分からヨーコのことを指している、とする書物もあるが、私はリンダを指しているとするジョン説に一票とする。

ちなみに英国では、子供が生まれると silver spoonを贈り、一生それを大切に使わせるという慣わしがあると聞いたことがあるので、歌詞となんらかの関係があるのかもしれない。また、“ silver hammer”はそのパロディである、とする説まであるが、どうだろう?

ところで、昔から“Sunday's on the phone to Monday,…”という歌詞は不思議であった。このSunday's のアポストロフィ、エスは何の略だろう?おそらくは“is”の省略形だと思うが、直訳すると「日曜日は月曜日に電話している」といったところだろうか。

“LADY MADONNA”では、やはり曜日の歌詞が現れる。こちらはもう少し写実主義的である。
ついでに、何曜日の歌詞が歌われていないか皆さんご存知でしょうか?土曜日?ピンポーン!マドンナ婦人の生活描写に較べると、“SHE CAME…”はもっとシュールである。

先にユージン・クイッツなる通りすがりの人物から“So I quit ~”のシャレを思いついた、と書いたが、イギリスの女性歌手サンデー・ショーや、ビル・ワイマンの元嫁のマンディといった曜日の女性名が存在する。ひょっとしたらこのくだりは、女性の名前にポールがインスパイアされたものかもわからない。

ところで、私は映画などでも、外国のバスルームで窓のあるものを見たことがない。
ロンドンで泊まったBed and Breakfastには、窓があった。確かに人が入れるような大きな窓だったが、しょせんB&Bである。バスルームと言えるような部屋ではなく、土間にバスタブをただ置いただけ、といった感じだった。もちろん、ホテルに泊まったときには浴室に窓はなかった。
“FREE AS A BIRD”のプロモには、梯子のかかった浴室(らしき)の窓が出てくるが。

ポールの豪邸の浴室は、いったいどんな浴室だったのだろうか。
どんな窓があったのだろうか。そして、何が飛び込んできたのだろうか。(01・9)

ちょっと珍しいジョンのボーカルで始まるおふざけバージョン。

ビートルズは、ここ2日で4曲を録音した。1週間後に“BECAUSE”のハーモニーを録るが、4人がバンドとしてベーシックトラックを録ったのはこの日が最後。このアルバムのスケッチはこれで完成し、あとは8月末まで、それぞれが自分の曲に納得が行くまで飾り付けを行っている。“POLYTHENE PAM~SHE CAME IN THROUGH THE BATHROOM WINDOW”はある意味、最後のビートルズのプレイ、なのだ。(08.7)

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