MEAN MR.MUSTARD
・「半端」なもの、そうでないもの
半端なやつをを全部一緒にしよう、というのがこのアルバムのコンセプトの一つであった。
作品数、という意味では、この時期のジョンは不振を極めている。
もっとも、ゲット・バック・セッションの記録などをみると、作品数のみならず内容的にも極めて乏しい。
1か月のセッションで、“ACROSS THE UNIVERSE”(これはフィルムが回っている時に少しプレイしただけであるが)、新曲としては“DON'T LET ME DOWN”“DIG A PONY”“ONE AFTER 909”“DIG IT”“CHILD OF NATURE”“GIMME SOME TRUTH”のほか、終盤“I WANT YOU”も完成したが、そのほかはこのメドレーの「半端な」3曲程度であるから、その後“IMAGINE”で陽の目を見た2曲以外はアルバム(“GET BACK”)に突っ込んだ、という感じである。
この状況はポールもほぼ変りはないが、曲数は多い。
驚くのはジョージで、“SOMETHING”はもとより“ALL THINGS MUST PASS”に収録される曲の多くがこの時披露されており、しかもまったく「半端」ではない。
もしもビートルズが本当に民主的なグループだったら、ジョージの曲中心のアルバムが作られてもおかしくないくらいに思えてくるラインナップである。それが結果“FOR YOU BLUE”1曲なんだから、誰だって途中で抜けるって…。
さらに脱線するが、最近、洋書“GET BACK~The Unauthorized Chronicle of the Beatles'LET IT BE Disaster” (1ヶ月に及ぶゲット・バック・セッションのフィルムからセッションの様子を起こした力作、以前に「DRUGS,DIVORCE AND A SLIPPING IMAGE」の題名でも出版されている。お勧めです。) の翻訳を読んだら、どうも69年の1月にジョージが抜けたのは、映画で見られるポールとのやりとりが主原因ではなく、その後のジョンとの諍いが決定的だったそうである。
その原因までは特定されていないが、ジョージは他の3人にデイリーミラ―紙に連名でギタリスト募集の広告を打てばよい、などと冷静に話していたようである。
確かに“WHITE ALBUM”で多くを放出したあとだけに、ジョンの新曲が少ないのはやむを得ないが、そのあとも本作までは実験音楽を除けば“THE BALLAD OF JOHN AND YOKO”と“GIVE PEACE A CHANCE”くらいだから、ジョンはヨーコ、及びイヴェントに夢中でポップ・ミュージックを等閑にしていたか、ビートルズに楽曲を提供することなどどうでも良かったのか、それともスランプだったのか。
“SUN KING”“MEAN MR.MUSTARD”“POLYTHENE PAM”の3曲は、いずれもはっきりしたサビがないという点では不完全である。ゲット・バック・セッションでのリハ等を聴くと、Bメロやサビを探っている様子が窺える。
この曲については、アンソロジーに収録されているデモ・ヴァージョンでも、“oh,mean mr.mustard,~♪”などとやっているし、ゲット・バック・セッションではエレクトリック・ピアノを導入して曲の雰囲気を変え、別メロで“~do you no harm,~♪”と展開を試している。
結果的には、メドレーのこの位置が非常に効果的で、曲が生きている。“SUN KING”のゆったりとした流れから、リンゴのドラムで始まり、ファズベースと相俟ってリズムの良く効いたミディアム・テンポの曲。
歌詞内容も自然の恵みを唄い上げて一転、非常に「個」的な一人の胡散臭い男のことを歌うが、ジョンはアンソロジー・ヴァージョンのように力むことなく、さらっと唄っているところが“YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY”にも通じる。そして2nd ヴァースは、ジョンとポール最後のハモリが聴ける。
もう少しアレンジに目を向けると、これはおそらくジョージ・マーティンとポールの仕事だと思うが、ファズ・ベース、レズリー効果のギター、途中から入るタンバリン、ポールがハモって、“Sleeps in a hole in the road~”の節のあとの上昇するダ、ダ、ダ、ダーン♪やエンディングの3拍子など、この曲の単調さを解決するアイデアが結構ふんだんに盛り込まれている。
決してビートルズ・フェイヴァリット・ソングの10位には入らない曲だけれど、本作には欠かせない重要な、「愛らしい」曲である。ジョンが言うほど、ゴミ箱行きの曲ではないと思う。
・“AIN'T SHE SWEET?”
この曲は7月24日のベーシックトラック・レコーディング時から、すでに“SUN KING”とメドレーで演奏されているが、実は、このレコーディングの直前と直後の演奏が、アンソロジー3に収録されている。
“直前”はポールの“COME AND GET IT”のソロ・レコーディングである。仮にこの曲が“FRAMING PIE”のアウトテイクだ、と言われても私なら騙されてしまうくらい、現在のポール・マッカートニーのヴォーカルやら作風やらを感じる曲だ。
逆に言えば、それだけスタジオの中で起こるビートルズ・マジックというのは凄く、ビートルズの一員としてのスタジオにおける緊張感や化学反応というのがあるのかもしれないし、また、一つにはポールが一番“ビートルズ・サウンド”というコンセプトに囚われ、それを固持しようとしていたメンバーだったからこそ、ソロの場合はサウンドに囚われがない、という見方もあるのかもしれない。
“直後”はジョンが歌う“AIN'T SHE SWEET?”である。これはBBCライブにも収録されているし、確かアンソロジー1にも収録されていたと思うが、ジョンの十八番である。
この69年テイクは非常に好きだ。リラックスした雰囲気がいいし、“SUN KING”の楽器の設定のままベースやギターを弾いていますよ、という感じがいい。
しかし一つ気になることがある。ジョンのヴォーカルに覇気がない。声が出て入ない。先ほど「さらっと唄っている」と書いたが、元気がないだけかもしれない。病み上がりだった、ヤク切れ状態だった、といろいろ考えられるのだが…。3日前の“COME TOGETHER”セッションでは気合いが入っているんだから、「病み上がり」なわけはないか。
ところで、ジョージ・マーティンは「ジョンはあのメドレーに不満だったが、ちゃんと力を貸してくれている。タペストリーにちょっとずつ音を織り込むアイデアを出してくれた」と言っている。この曲や、次の曲のことを言っているのだろうか。
この曲の歌詞では、あとの曲と繋がりがいいようにマスタードの妹の名前をシャーリーからパムに変えて唄っている。ひょっとしたら、これだけが彼の“アイデア”だったのかもしれないが…。
いずれにせよ、けっこう協力的なジョンであります…。
・HER MAJESTIY
当初“HER MAJESTY”がこの直後に繋がれていたことが判明している。
恐るべし、ポール、である。最終的には繋がりが気に入らなくて外されるが、この“MEAN MR.~”“HER MAJESTY”“POLYTHENE~”の流れは、ルウィソン氏の書物が出るまでまったく想像がつかないものだった。これにより、“HER MAJESTY”のイントロの大音響とアウトロの音が欠けている二つの理由が一挙に解決することとなった。
それにしても、どうしてこんなところにこんな曲を持って来ようとしたのか。
歌詞中、“takes him out to look at the queen”に引っ掛けると、“HER MAJESTY”の歌詞自体Mr.Mustardの独白になる。つまり、歌詞内容をメドレーにした、ということは充分に考えられる。
そうすると、浴室の窓から飛びこんだのはPam、ということに…。(01・9)
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