CARRY THAT WEIGHT
・コーダ
コーダ、である。まだこのあとに大団円が待っているが、紛れもなくこの曲が“HUGE MELODY”のコーダとなっていると思う。
第1楽章である“YOU NEVER …”のフレーズがジョージ・マーティン渾身のストリングスによって豪奢にリフレインされ、ジョージの絶妙なリードギターとポールのベース、ジャジーなピアノが一体となって“YOU NEVER…”とはまた一味違ったリリカルな味わいを出し、再びタイトル・コールを力強く歌ったあと、同曲のエンディングや“MEAN MR.…”や“PAM”、“HERE COMES THE SUN”で聞かれた3音下降で閉じる。非の打ちどころのない、最終楽章である。
この曲は、1月6日または翌7日のリハーサルで聞けるテイクでは、リリーステイクよりはもう少し明るい感じの曲である。中間の“YOU NEVER…”のリフレインがないからかも知れない。
この際の中間部はいろいろ試行錯誤されており、どちらかと言えば“LADY MADONNA”や“OB-LA-DI…”のノリに近いような曲調である。少なくともリリース・テイクで私が感じるような、悲しみに立ち向かう力強さ、みたいな空気は微塵もない。
で、結局、最終的にはこの1月のリハーサルからはワンフレーズだけしか残っていない。プラス“YOU NEVER~”のリプライズである。
やはりかなりこの曲は、コーダ的な役割がかなり強く意識されて完成したのではないか、とも考えさせられる。
・ リンゴ用の曲
“GET BACK~The Unauthorized Chronicle of the Beatles'LET IT BE Disaster” (1ヶ月に及ぶゲット・バック・セッションのフィルムからセッションの様子を起こした力作、以前に「DRUGS,DIVORCE AND A SLIPPING IMAGE」の題名でも出版されている)を読むと、なにぶん、英語力がおぼつかないので誤解も多いことと思うが、この曲についてもたいへん興味深い記述がみられる。1月6日の記述と、1月6日の音源と言われているものを聴きながらコメントしてみる。
1月6日の昼前、ポールはリンゴにオルガンでこの曲を弾いてみせて、なんとこの曲をリンゴ用に作った、と言っているようである。…私の英語力では。
ジョンの、“GOOD NIGHT”の半年後である。この二人は、自分のキャラではない曲を書いてしまった時、リンゴに、というかリンゴの“キャラ”に歌わせている。
“CARRY THAT WEIGHT”という命令形のメッセージは、ポールがジョンをはじめとする他のメンバーと、そして自分自身に向けて発したものと受け取られかねないわけで、これをポールがリキ入れて歌うわけにもいかないだろう。
69年1月6日に、こういったポールの申し出にもかかわらず、この曲はリンゴの関心をうまく惹いたとはいえなかったようで、逆にこのタイミングで自作の“OCTOPUS'S…”をポールに披露している。まるで、自分が歌いたいのはこっちだ、という感じである。
そうすると、ポールもすぐさまオルガンでサポートするが、そのフレーズは“CARRY THAT WEIGHT”のままである。
そしてまた、このリンゴの作品もポールの関心を惹くことはなく、再びポールは自分の曲に戻って自ら歌い出している。…ようである、私の聞いた限りでは。議論ではなくて音楽で互いに言いたいことを主張しているようにも感じる。
1月6日のトピックスはこれだけではない。ポールとリンゴはこのやりとりの後、この曲をデュエットで歌うのだが、これが素晴らしいのだ。
リリース・テイクのように力強く歌うのではなく、もっと優しく、優しく歌っている。まるで母親が自分の子供達に諭すように。童謡のように。もちろん、“YOU NEVER~”のリプライズはまだなく、ずっと平和的なメロディ(OCTOPUSに似ているが‥)が続く。
この曲の一つ前の子守唄“GOLDEN SLUMBERS”と、“Boy,”が繋がっている理由が、何となく推測されるようなリハーサルであった。
・ヴォーカルと詞作
これまで何度も言ってきているが、このアルバムで聴けるポールのヴォーカルは凄い。
“OH!DARLING”や“GOLEDEN SLUMBERS”は言うまでもなく、“MAXWELL'S…”で聴かせた、感情を抑えたヴォーカル、“YOU NEVER…”の変幻自在、“BATHROOM WINDOW”の少しフィルターが掛ったような一人ダブル・トラック、“THE END”の絶叫、“HER MAJESTY”のアコギ1本のヴォーカル。
このアルバムの魅力の秘密でもあると思う。
それを言うなら“WHITE ALBUM”の方が多種多様ではないか、とのご意見もあると思う。
しかし、このアルバムにおけるポールのヴォーカルはもう少し統制がとれている。はっきりと、ヴォーカルに対する真剣なアプローチを感じる。
先に書いた通り、この曲をリンゴに披露したときには非常に優しい唄い方であったが、レコードでポールは非常にパワフルな歌唱を聴かせている。
特に、コーラスを重ねる前のテイクを聴くと、これだけポールがリキ入れて歌っていたらコーラスもラウドにいくしかないわな、と思えるようなものである。
また、詞作についても力が入っている。
I never give you my pillow
I only send you my invitation
And in the middle of the celebrations
I break down
(C)Lennon-McCartney
pillow(枕)は別として、invitation(招待状=レコード?)はcelebration(祭典=ビートルズ?)のものだろうか。celebrationの最中にbreak downなんて、なかなか“不健康”でよろしい。
しかし、celebrationはcarry outしなければならないのだ。“YOU NEVER…”のnegotiationやinvestigationは、実際のビートルズの内幕の話だけれども、celebrationはわれわれファンの幻想である。that weight をlong timeにcarryしなければならない…(わけわからないが…)。(00・12)
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